株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

デフレと科学論文[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.55

古川博之 (旭川医科大学病院病院長)

登録日: 2020-01-04

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本の科学論文数が減っている。科学研究のベンチマーク2019(村上、伊神)によると、総論文数が世界ランク最高2位(2005)から5位、TOP10%の補正論文数は最高4位(2003)から11位、TOP1%の補正論文数は最高5位(2002)から12位と、年々その順位を落としている。特に日本の得意分野であったはずの工学でその凋落ぶりが激しい。そんな日本を心配して特集を組んだネイチャー誌が2005年から10年間のScopus論文数は、他国の論文数が80%増加する中、日本の増加はわずか15%に留まっているという。2015年の国立大学協会の報告書(豊田)の中にも、日本の研究の国際競争力が量・質ともに低下したことが指摘されており、詳細な分析から、原因として高等教育機関へ研究資金とFTE研究従事者数の減少が挙がっており、先進国中、最低レベルであったという。さらに、科学技術費を比較してみると、2000年を基準にして、中国で12倍、韓国で5倍と大幅に科学技術費が増加しており、米国、ドイツ、英国でさえも1.5~1.7倍の増加が見られるのに対し、日本は1倍、すなわち横ばいの状態であり、論文数の低迷の根幹はここにあると考えられる。

国立大学では、既に論文が減りはじめている2004年から運営費交付金が毎年1%ずつ削減され、10年間で444億円減少した。これでは論文数が増えるわけがない。確かに、バブル崩壊以降1997年よりデフレが続いており、日本の経済状態は決していいとは言えない。各省庁への予算配分が緊縮になっているのはわかるが、科学技術やそのための教育は、科学技術大国日本の根幹に関わる問題であり、将来を占う鏡である。多くのノーベル賞受賞者が言っているように、このままだと確実に2030年以降ノーベル賞は出なくなるだろう。日本の論文を増やす方法は、科学技術費の増額や運営費交付金を元に復帰させるしかない。

今すぐにでも科学技術への投資を、と誰もが思っている。デフレで緊縮の日本でどのようにと思っている人が多いと思われるが、これを解決する方法として、現代貨幣理論(MMT)がにわかに脚光を浴びている。MMT理論によると、自国通貨建ての国債はデフォルトを起こさない。もっとも、これについては黒田日銀総裁自身も同様のことを述べており、従来言われてきた日本は1000兆円の借金を抱えて破綻するということはありえないことが判明してきた。MMT理論では、インフレ率が2%程度に上がるように投資を積極的に行っていく方法である。これによって科学技術費を増加できることはもちろん、年々巨大化するつい昨年10月のような台風から日本を守るための国土強靱化にも、予算を投じることができる。

魔法のような処方箋とお思いでしょうが、これが日本を変えるかもしれない。一度、MMTをご覧あれ。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top