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胃癌でいのちを落とすのはもったいない時代に入った[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.17

浅香正博 ( 北海道医療大学学長)

登録日: 2020-01-02

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胃の中に生息するピロリ菌は、慢性胃炎を経て胃・十二指腸潰瘍、胃ポリープなどの様々な胃の病気の原因になる。慢性胃炎を放置すると、その一部は胃癌を引き起こす。わが国では胃癌の約98%がピロリ菌由来とされる。2013年2月、世界で初めて、ピロリ菌感染で起きる慢性胃炎への除菌療法に保険が適用された。このことで、ピロリ菌の除菌治療を受ける患者は急速に増え、5年間で約800万件にも達した。

一方、40年にわたって毎年約5万人に上った胃癌死亡者数は、14年から減少に転じた。18年には約4.4万人と、保険適用前に比べて約12%もの減少を示した。この減少の原因は、ピロリ菌除菌の慢性胃炎への保険適用の効果と考えるのが妥当と思われる。保険適用の際、ピロリ菌の診断・治療を行う前に内視鏡検査で胃炎の存在を確認することが条件づけられた。そのため、予後のよい早期胃癌が発見される機会が飛躍的に増加したため、と考えられる。実際、保険適用後、上部内視鏡検査件数は年に約200万件も増加している。だが、現状は楽観視できない。17年頃からピロリ菌の除菌治療を受ける患者数は徐々に減りはじめた。ピロリ菌に関心のある人の除菌が、ほぼ終了に近づいてきたことが理由のひとつと思われる。

未だ3000万~4000万人存在すると考えられるピロリ菌感染者の多くが、除菌されずに残ったままなのである。ピロリ菌に感染していても、自覚症状はほとんどみられない。したがって、症状がなくても一度は医療機関を受診し、検査でピロリ菌感染の有無を確かめることが望ましい。感染者は全員が慢性胃炎という病気を持っており、除菌治療の対象になることを理解してほしい。除菌できたことをきっちり確認し、必要に応じて経過観察を続ければ、慢性胃炎が将来、胃癌に進行するリスクを減らせるだけでなく、内視鏡検査で早期胃癌を発見し、完治できるチャンスが増えていく。わが国は胃癌で亡くなるのはもったいない時代に入ってきたのである。

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