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マイナスからの大挽回[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(281)]

No.4989 (2019年12月07日発行) P.59

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2019-12-04

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阪大の医学部で病理学の総論を教え始めてはや15年。成績はずっと長期低落傾向にあったのだが、今年は110名の受験者に64名が不合格と、一気に悪くなった。同じレベルの試験問題なのに最悪の出来だ。

不合格者が増えただけではなく、高得点の子の数が激減したのも気にかかる。まるで地滑り状態である。来年から回復してくれればいいが、どうなることやら心配だ。

難関入試を突破してきている子たちである。まともに勉強したら絶対に合格点をとれるはずなのに、不思議でたまらない。

本試験は論述式が8点×5問で40点と、穴埋め問題が2点×30問で60点の計100点満点で合格は60点。毎年満点がいるのだが、今年は最高点が89点とえらく低い。穴埋め問題では明らかな誤答を1点減点するので、最低点はなんとマイナス1点だった。

本試験を捨てて再試験に賭けるような態度の悪い学生がいるので、再試験の合格ラインは60点+[(60点-本試験の点数)÷2]にしてある。なので、マイナス1点だと再試験のボーダーは90点になる。

当たり前といえば当たり前なのだが、例年、本試験の成績が悪い子は再試験の出来も悪い。残念ながら、マイナス1点の子(以下、マイイチ君)はほぼ留年確定だ。

マイイチ君、「再試験でがんばったら何とかなりますか」と聞きに来た。これまでの経験からほぼ不可能だが、涙ぐむ学生にそう伝えるのは忍びない。「がんばったら大丈夫、しっかり勉強しなさい」と励ました。

そして再試験。マイイチ君の答案は、本試験の解答内容からはとても想像できないほどよくできていて無事合格。うれしくなって、おめでとうメールを送ったら、お礼を言いたいとやってきた。

病理学総論は、生化学、分子生物学、遺伝学、解剖学といった科目の知識が基礎になっているので、付け焼刃で勉強してもなかなか難しい。マイイチ君、そのあたりの復習も含めて300時間は勉強したという。

これまで不勉強であったことを心から反省しました。本当にいい機会を与えてもらえて感謝しています。これからしっかり頑張りますと、えらく殊勝なことを言う。
涙が出るほどうれしかった。定年まで2年。教育してもむなしいばかりなので、ええ加減にしようかと不埒なことを考えていたけれど、がんばる意欲が湧いてきた。

なかののつぶやき
「学生から鬼のように恐れられてますが、どう見ても最低限の医学知識がついていない学生限定で、平均したら年に1人しか留年させてません。残念ながら、今年も1人留年させました。その子に『まったく常識レベルの基礎知識すらない』と伝えたら、他の科目でもそう言われました、とのこと。答案って正直で、結構いろんなことがわかるんですわ」

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