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ラダック再訪(その5)─トラブル克服[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(271)]

No.4979 (2019年09月28日発行) P.65

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2019-09-25

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旅にトラブルはつきものだ。とりわけ僻地や高地の旅行では健康維持に気をつける必要がある。今回は6人のグループだったが、うち1人は下痢でほぼ2日間ダウン。

もう1人は高山病で緊急入院。かなり心配したけれど、酸素吸入をして筋肉注射をしてもらったら良くなった。高山病に効く注射など聞いたことはないが、まぁよしとしよう。しかし、その治療費には驚いた。

高かったのではない、むちゃくちゃに安かったのだ。わずか400ルピー、日本円にして600円。物価の違いを考えても激安である。何でも、ラダックの住民には特別な医療優遇政策がとられていて、外国人にも適応されるとのこと。素晴らしい。

私といえば、お腹をこわしやすいので、いつものように止瀉剤を予防的に服用していた。おかげで下痢しらず。高地とはいえ、何度も経験したレベルなのでそれも問題なし。しかし、虫刺されに見舞われた。

ドムカル村での朝、身支度をしていると、右手の中指に痛みと痒みを感じ始めた。部位は第一関節と第二関節の間、中節の背側だ。見れば、ちょうど中央に1ミリくらいの出血がある。そして、その周り直径1センチほどが蒼白になっている。

おかしな虫刺され跡やなぁと思いながら眺めていると、中節だけが発赤を伴って腫れてきた。出血部位に針が残っているようでもない。見回しても虫らしき姿は見当たらないので、何に刺されたかはわからない。

ステロイド剤を持参していたので、塗って様子を見ようかと思ったけれど、どうにも我慢できない。それに、腫脹も痒みもどんどんひどくなる。なんなんや、これは。

悪い毒がはいっていて全身に回ったりしたらあかん。と、アーミーナイフで小さな切開をいれて、腫れた中節をマッサージするようにして体液を絞り出した。

1mLにも満たないごくわずかな量である。が、驚いたことに、みるみるうちに腫れはひき、痒みも治まった。おぉ、素晴らしい判断!我ながら名医である。

帰国してから調べてみたが、結局のところ何に刺されたかはわからずじまい。経過からいうと、何かの虫毒がはいって、それをうまく絞り出せたとしか思えない。しかし、そんなことってありえるんやろうか。結果オーライとはいえ、いまひとつ納得がいかないラダックにわか名医でありました。

なかののつぶやき
「刺された中指はこんな感じ。あせっていて、治療前・治療後の写真を撮らなかったのが、心から悔やまれます。右のスケッチは自分で描いたもの。字、むっちゃ下手です」

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