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佐藤泰然(3)[連載小説「群星光芒」225]

No.4813 (2016年07月23日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-23

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  • 「薬研堀の公事師佐藤藤佐は実務に詳しく弁舌も巧みだ。度胸と男気があるのもそんじょそこらの俠客にひけをとらない。引き受けた仕事は押しの一手で有利に運んでくれる」

    そんな評判が立ち、依頼人はずいぶん増えた。公事師は奉行所との関わりも深い。後ろ楯の旗本伊奈遠江守の引き合わせにより勘定奉行矢部駿河守の知遇を得たのも仕事の上で好都合だった。

    矢部駿河守は火付盗賊改め役を経て大坂町奉行、勘定奉行と出世した闊達かつ豪快な傑物である。藤佐より一回り若いが互いに気も合い、しばしば会って親交を深めた。おかげで藤佐は江戸や関東一円の世情にかなり詳しくなった。たとえば武蔵国の川越藩が領内の大水害によって借財24万両と年2万両の利息を抱えて窮地に陥っていることや、武蔵国埼玉郡の忍藩、上野国甘楽郡の小幡藩、上野国伊勢崎藩などが飢饉や洪水で財政窮乏にあえぎ、領民たちの不満が高まっていることなども知った。

    また藤佐は駿河守に頼まれて田安斉匡卿が囲っていた妾の不祥事を揉み消したこともあり、田安卿とも身分を離れて通じ合う仲になった。

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