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医師の働き方改革に思う[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.16

藤田次郎 (琉球大学医学部附属病院病院長)

登録日: 2019-01-01

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近年、医師の働き方改革が叫ばれている。私の研修医時代は、長時間労働が当然のように要求されていた。私が研修先に選んだ虎の門病院での待遇はレジデントであり、病院内に住んでいた。今でも教授室にある私のレジデント時代の手帳には、朝6時から夜12時までのスケジュールが書かれている。1日の労働時間18時間が当たり前であった。この土台があって現在の自分があると感じるものの、このような働き方を見直す時代になっている。

初期臨床研修制度の導入により、若手医師の都会への集中をまねき、地域医療は疲弊している。働き方改革を進めるのならば、研修制度も同時に見直し、都会・地方にかかわらず、同じ働き方が保証され、勉強の機会も得られるべきであろう。加えて最近、女子受験生の排除が問題になった。産婦人科や女性外来では女性医師が求められているのに、時代に逆行しているように思う。これは、長時間労働できる医師しか認めない、つまり医師は長時間勤務して当たり前、さらに、家事・育児は女性の役割という固定観念からきているものである。医師の働き方改革とは、この固定観念を改めることだと考えている。

医師の勤務時間を見直すだけで問題が解決するわけではない。わが国は国民皆保険制度により、世界最高の医療制度を整備した。医師法第19条に定められた応召義務を果たし、夜間救急体制も整えてきた。これを支えてきたのは、献身的な医師の努力ではなかったか。この努力で社会的な尊敬を得たことで、優秀な若者が医師をめざすようになったのではないか。さらに、多くの医師が学位の取得をめざすことで、学術的にも充実してきた。医師の働き方改革により、これらが損なわれてはならないのは当然である。多様な働き方を認め、すべての医師が患者のために献身できるようにすることが働き方改革であるものの、医師の働き方改革で、「患者のために」という医師の献身は失われないだろうか。また、診療拒否の恐れはないのであろうか。長い目で見た際に、これまで築いてきた医師の社会的立場が揺らぐことを危惧している。

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