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産業医の仕事─素描[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.25

廣 尚典 (産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学教授・産業医実務研修センターセンター長)

登録日: 2019-01-02

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筆者は、働く人の精神保健を研究および実践の専門領域としている。医師にとって、この領域には2つのアプローチがある。1つは臨床的アプローチであり、不調者の診断と治療を中心とする。主として、精神医療および心身医療がそれを担っている。もうひとつは、産業保健的アプローチである。職場の中で不調の未然防止、早期対応、復職あるいは職場再適応の支援等に係る取り組みを行う。産業医の職務である。両者の考え方、手法は大きく異なっており、相互理解と連携が望まれている。筆者の活動は後者にあたる。

身体疾患でもそうだが、特に精神面の不調については、職場でどういった配慮をどこまで行うべきかの判断が難しい。本人の病状を増悪させない、回復を妨げないという短期的な見方だけでなく、これから先、本人が周囲とどのように関係を持ちながら就労していくかを睨んだ中・長期的な展望も念頭におく。上司や同僚の負担が増え、かれらの健康が脅かされる状況をつくらない視点も求められる。さらに、周囲に過剰な配慮を求めることで、職場関係者の多くが精神面の不調全体に対して否定的な感情を抱き、それが他の不調者への対応にまで波及する可能性も考慮せねばならない。

また、不調者と働き方や職場での役割などを話し合っていくと、本人の家庭生活や地域社会との関わりをも思料することになりがちである。産業医は職場以外の事柄には不用意に踏み込むべきではない、という考え方もある。産業医が知りうる情報には限界があり、偏りも生じがちである。したがって、それをもとにした働きかけは不適切なものになる恐れがある。しかし、仕事と家庭や地域における役割は影響を及ぼし合っており、明確に切りわけられるものではない。

「キャリア」という言葉がある。一般には「職歴」あるいは「経歴」という意味で使用されてきたが、職業生活における成長、自己実現を主軸とし、他の役割、活動等を含めた生き方全般を指すようにもなっている。産業医の仕事は、働く人のキャリアを健康面から支援することとも言えよう。

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