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科学的生死感:天地水の原子・分子から自分誕生・成長・老化を経て再び天地水へ[エッセイ]

No.4918 (2018年07月28日発行) P.65

菅 弘之 (国立循環器病研究センター名誉所長)

登録日: 2018-07-29

最終更新日: 2018-07-24

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ヒトは母体から誕生後、徐々に発育し、成長し、老化していき、最後に死を迎えて、人生の終わりとなると考えるのが常識でしょう。この誕生から死去までが各自が生存している期間です。その結果、誕生前には自分はいないし、死後には自分はいなくなると考えるのが常識です。しかし、各人を構成する物質である原子・分子の観点から、自分の誕生前や死後がどうであるかを以下のように考えてみると面白いかと思われます。

各人の誕生に必要な受精卵は、母体の卵子が男性の精子によって受精することから始まることは常識でしょう。この受精は、ほとんどの場合には男女の性交によって起こりますが、医療的には体外に取り出した卵子と精子との受精でも起きえます。こうして出来上がった受精卵は、母体の子宮内で細胞分裂を何度も繰り返して細胞数を増やし、様々な臓器が出来上がって胎児となって子宮内で成長しています。

その間、胎児の体内ではヒトになるために必要な脳神経、心臓血管、肺、消化器、筋肉、骨等の臓器が正常に成長していきます。 何らかの原因で発育・成長が妨げられると、死産となったり、奇形児になったりしますが、幸いに、ほとんどの場合は健全な胎児となり、生まれてきます。

誕生後の乳幼児の個体内では、様々な臓器の中で細胞は様々な速さで細胞数を増やしたり、新しい細胞と入れ替わりながら成長していきます。その入れ替わり速度は、速いものでは数日、遅いものでは数年もかかります。その途中で何らかの原因により細胞分裂に異常が起きると、様々な成長異常が起きたりします。

正常な発育・成長・老化を経ながら人生の最後として死に至ると、遺体処理方法(火葬、水葬、土葬等)により異なりますが、遺体は臓器、組織、細胞、分子、原子に分解して、時間を経て自然界に拡散していきます。拡散中には自然界から再び新たな天地水に混じり、そのまま自然界に残ったり、食料や飲水や呼吸等を介してわずかずつではあっても別の人の体内に入り、同様な経緯を経て、その体内に残ったり、再度天地水にたどると考えられます。

このような経過をたどっている個々の原子・分子が具体的にどのような経路をたどっているのかを知りたいのですが、限られた環境内では可能ですが、一般的には残念ながら現在、それを知る方法はありません。

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