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利尻にクマは出なかった(下)[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(211)]

No.4918 (2018年07月28日発行) P.63

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-07-25

最終更新日: 2018-07-24

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利尻山は海に浮かんだ山である。だから文字通りの海抜が1721メートルで、海に足を浸してから頂上を目指すのが正しい登り方とされている。しかし、そうすると往復で12時間もかかってしまう。さすがにきついので、標高220メートルの登山口から登り始めるのが一般的だ。

夏至を数日すぎた北の最果て、日の出は4時前である。3時に起きて、おむすびをほおばり、荷造りをする。車で登山口まで送ってもらっていざ出発。

利尻島といえば、106年ぶりにヒグマが上陸したのがニュースになっている。登山者みんなが熊よけの鈴を持っているだろと思っていたのだが、むしろ持っていない人の方が多い。あかんやろそれは。

熊よけ鈴は、多くの人が鳴らしながら歩いてこそ、クマくんに、なんやあのあたりはリンリンとうるさいから近づかないでおこう、と思わせる効果があるような気がする。いわば、ワクチンによる予防みたいなもんとちがうんか。

熊よけ鈴はうるさいから嫌いだ。なので、使ったことがなかった。しかし、ヒグマとなると話は別である。吉村昭の『羆嵐』(新潮文庫)や、その元となった、大正4年冬の人喰い熊事件を描いた『慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件』(木村盛武著、文春文庫)を読んだら、その恐ろしさがわかるはずである。

とか、ぶつぶつ思いながら歩き続ける。富士山と同じく利尻山のような独立峰は、登っていてもあまり面白くない。周囲の景色がなさすぎるのだ。その上、悪いことに曇り空。あえぎながらひたすら登ること約5時間で頂上に無事到着。

小一時間と短かったけれど、頂上付近で晴れたのはうれしかった。下りは小雨模様で足元も悪く、きつかった。で、最後まで熊に出会うことはございませんでした。

下山したら、何はともあれお風呂である。宿泊した旅館のお風呂は、利尻昆布がうかべてあって、心持ちぬめっとしている。なんとなくお鍋の具材になったような気分(どんな気分や…)である。

昆布の形もおもしろかったし、ツイッターでアップしたら、1万回以上もリツイートされ、おまけにネットニュースにまで取りあげられてびっくり。どうしてそんなに受けたのか、いまだにようわかりませんわ。

なかののつぶやき

「“利尻島の旅館ではいった『昆布風呂』、お湯に昆布がはいってます。『注文の多いお鍋屋さん』ではありませんでしたので、ご安心を”とツイートしたのでありました」

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