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・島崎は熱中症において解熱後も遷延する中枢神経障害を「熱中症性脳症」と定義しました。
・heat strokeのうち,約8割に意識障害を認め,約1/3に重症意識障害を認めています。
・熱中症性脳症の病態にはHMGB1が関与しています。
・熱中症性脳症の特異的治療は存在しませんが,neurocritical careと熱中症治療の原則が当てはまります。
熱中症は適切な治療で回復することが多い一方,重症例では「熱中症性脳症」を発症し,中枢神経に障害が残ることがあります。本稿では,熱中症性脳症とはどのような病気なのか,その頻度や病態,重症度の評価,治療法について解説します。
熱中症性脳症って何?
敗血症性脳症が最近のホットトピックスですが*1,熱中症に特化した脳症として熱中症性脳症があることをご存じですか? 本稿では熱中症性脳症をご紹介します1)。
熱中症でも軽症熱中症*2では,一時的な意識障害を認めたとしても解熱とともに速やかに意識が回復します。しかしながら,重症熱中症*3においては中枢神経障害が遷延することをしばしば経験します。そのような状況を鑑み,熱中症研究の第一人者の1人である島崎淳也先生は熱中症において解熱後も遷延する中枢神経障害を「熱中症性脳症」と2018年に世界で初めて提唱し,その病態の解明に取り組み始めたのでした2)。
*1 日本集中治療医学会から出版予定の『神経集中治療ガイドライン2024』でも取り上げられる予定です。
*2 『熱中症診療ガイドライン2015』のⅠ度やⅡ度に相当します。
*3 『熱中症診療ガイドライン2015』のⅢ度に相当します。
熱中症性脳症の重症度評価
熱中症性脳症の具体的な診断基準や重症度評価スケールは存在しません。よって,集中治療領域で臓器障害を評価する際に最も使用されているSOFA(sequential organ failure assessment)score3)のうち,中枢神経評価スケールであるGlasgow Coma Scale(GCS)4)を代用しています(表1)。注意点として,たとえば敗血症性脳症(敗血症関連脳障害)の場合には,せん妄もGCS scoreに加えて含まれることが多いですが,せん妄の扱いについては現在までに明確には決められていません。

熱中症性脳症の頻度
2010,2012,2014年に日本救急医学会が施行したHeat strokeレジストリのうち,modified JAAM heat stroke基準5)*4を満たす患者690名のうち,Glasgow Coma Scale(GCS)15が22.3%であり,残りの77.7%がGCS 14以下でした。GCS 13~14の軽症の意識障害が24.8%,GCS 9~12の中等症意識障害が17.1%,GCS 3~8の重症意識障害が35.8%でした6)。つまり,heat stroke*5のうち,約8割に意識障害を認め,約1/3に重症意識障害を認めています。熱中症性脳症を島崎の定義2)に厳密に当てはめると解熱後となりますが,厳密に当てはめずに意識障害と定義すると上記の割合のように非常に高頻度で認めていることがわかります。
*4 GCS<15,Cre≧1.2mg/dL, T-bil≧1.2mg/dL,DICスコア≧4
*5 『熱中症診療ガイドライン2015』のⅢ度に相当します。
熱中症性脳症の病態
島崎は下記の病態を提唱しています2)。HMGB1(high mobility group box-1 protein)は核内蛋白の一種ですが,侵襲(暑熱環境の曝露)によって細胞傷害が引き起こされると血中に放出されるDAMPs(damage-associated molecular patterns)のひとつとして認識されています。HMGB1がTLR2/4,RAGE(receptor of advanced glycation end-products)といったパターン認識受容体と結合することにより炎症を惹起することが知られています。これらより,重症熱中症においては血清HMGB1が増加し,血清HMGBが熱中症性脳症の重症度と相関することを明らかにしました2)。
熱中症性脳症の治療法
熱中症性脳症の特異的治療は存在しませんが,neurocritical care(神経集中治療)と熱中症治療の原則が当てはまります。
①気道(Airway)・呼吸(Breathing)・循環(Circulation):ABCの確保
重症患者の場合には,意識レベルも悪く,血圧も低いため,気道確保と十分な輸液の投与が先決です。その上で,迅速な冷却を行います。
②冷却
冷却を終了する至適体温について明確なエビデンスは存在しませんが,『熱中症診療ガイドライン2024』では深部体温が38.0℃になるまで積極的な冷却処置を行うことを弱く推奨しています。
③臓器不全に対する管理
中枢神経障害の対応として持続脳波モニタリング(continuous electro-encephalography:cEEG)を行います7)。早期に非けいれん性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus:NCSE)などを認めた場合には,適切に対応します。
本項は,一二三 亨:熱中症性脳症. 救急・集中治療. 2021;33(1):280-5. で発表済みの内容を参考に,記載内容のアップデートを行うとともに,本書の読者に向けて,本書独自の形式で書き下ろしました。
文 献
1)一二三 亨:熱中症性脳症. 救急・集中治療. 2021;33(1):280-5.
2)島崎淳也:熱中症性脳症におけるHMGB1の関与と病態の解明.
[https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K16514/](2025年4月18日閲覧)
3)Ferreira FL, Bota DP, Bross A, et al:Serial evaluation of the SOFA score to predict outcome in critically ill patients. JAMA. 2001;286(14):1754-8. PMID: 11594901
4)Teasdale G, Jennett B:Assessment of coma and impaired consciousness. A practical scale. Lancet. 1974;2(7872):81-4. PMID: 4136544
5)Hifumi T, Kondo Y, Shimizu K, et al:Heat stroke. J Intensive Care. 2018;6:30. PMID: 29850022
6)Hifumi T, Kondo Y, Shimazaki J, et al:Prognostic significance of disseminated intravascular coagulation in patients with heat stroke in a nationwide registry. J Crit Care. 2018;44:306-11. PMID: 29253838
7)蜂谷聡明, 岡島正樹, 中村美穂:多臓器不全を来したⅢ度熱中症の管理において持続脳波モニタリングが有用であった1例. 日救急医会誌. 2016;27(4):125-9.
(本稿は,熱中症診療の最前線で活躍する著者が,熱中症の予防から治療までを科学的根拠に基づいて解説した『熱中症の謎となぜ』(一二三 亨著)の一部を抜粋・編集したものです。)
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