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2026年時点で熱中症予防に保険承認された医薬品はありません。熱中症予防薬,夢のような話かもしれませんが,市場のニーズは大きいです。まずは発症予防薬ではなく重症化予防薬のようなものから開発されるかもしれません。今後の研究成果が期待されます。
熱中症対策といえば,水分補給や暑さを避ける工夫がよく知られていますが,「熱中症を予防する薬はないの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。熱中症の病態と研究の現状から,「予防薬」という考え方をわかりやすく解説します。
熱中症予防に保険承認された医薬品はない
2026年時点で,熱中症予防に保険承認された医薬品はありません。地球温暖化の中,熱中症予防薬があれば,真夏の建設現場やイベント会場など多くの場面で有用な可能性があります。少し未来予想にはなりますが,本項では概念的なところを紹介したいと思います。
熱中症予防薬のコンセプトとは?
播種性血管内凝固症候群(DIC)が熱中症死亡の予後因子であることを私自身も論文として報告しています1)。さらに島崎2)の研究では,重症熱中症患者の臓器障害のうち,線溶マーカーのPIC(α2プラスミンインヒビター・プラスミン複合体)が来院時にすでにピークを迎えており,かつ凝固マーカーのTAT(トロンビン・アンチトロンビン複合体)も来院時より上昇を認めていることから,発症早期から線溶亢進とそれに伴う凝固亢進症状を認めていることを報告しています。
それでは,これらをもとに,少し病態生理について考えてみましょう。図1を見るとDIC治療薬であるトロンボモジュリンやメシル酸ナファモスタット,アンチトロンビンなどは熱中症による凝固障害に対して効果を示す可能性があります。また,抗線溶薬であるトラネキサム酸は重症熱中症の発症早期に効果が期待できます(今後の研究結果を待たないと,現時点では「効果がある」とは言い切れませんので注意が必要です)。

ただし,注意しなければならないのは,当然ながらこの凝固障害の系が熱中症の病態のすべてではない,ということです。そう考えると,これらの薬剤はあらかじめ暑熱環境に曝される前に服用することで凝固障害をある程度コントロールすることが可能になり,完全な発症予防薬とならなくても,重症化予防薬としてはある程度の効果を果たせるのではないか(図2)と期待されています。感染症に対するワクチンのようなイメージですね。

文 献
1)Hifumi T, Kondo Y, Shimazaki J, et al:Prognostic significance of disseminated intravascular coagulation in patients with heat stroke in a nationwide registry. J Crit Care. 2018;44:306-11. PMID: 29253838
2)島崎淳也:熱中症の重症度評価とバイオマーカー. 第46回日本集中治療医学会学術集会. ジョイントシンポジウム3(日本集中治療医学会・日本救急医学会/神経集中治療ガイドラン作成委員会企画) 重症heat strokeに対する神経集中治療2019:社会復帰率を上げるために. 2019.
[https://confit.atlas.jp/guide/event/jsicm2019/subject/JSY3-2/detail?lang=ja](2025年4月18日)
(本稿は,熱中症診療の最前線で活躍する著者が,熱中症の予防から治療までを科学的根拠に基づいて解説した『熱中症の謎となぜ』(一二三 亨著)の一部を抜粋・編集したものです。)