Answer
・暑い日
・夕方から夜にかけて救急外来を受診する
・頭が痛い
・吐き気,嘔吐
・だるい
上記のような患者さんは,熱疲労を考え,冷たい生食(+制吐薬)を点滴して,ひと休みしてトイレに行かせて帰宅させましょう。完全回復までにはある程度時間がかかります。 その覚悟が必要ですね。
暑い環境で頭痛や吐き気,強いだるさが現れたとき,その原因は「熱疲労」かもしれません。熱疲労は熱中症の一つですが,症状の現れ方は幅広く,ほかの病気との見分けが難しいこともあります。本コラムでは,熱疲労をどのように診断し,治療するのかを整理するとともに,熱中症で頭痛が起こる仕組みを解説します。
幅広い概念の熱疲労
熱射病よりも少し軽い熱中症の概念が熱疲労(heat exhaustion)です。熱疲労は,Bouchamaらによる2002年の報告では,
Mild-to-moderate illness due to water or salt depletion that results from exposure to high environmental heat or strenuous physical exercise; signs and symptoms include intense thirst, weakness, discomfort, anxiety, dizziness, fainting, and headache; core temperature may be normal, below normal, or slightly elevated (>37℃ but <40℃).
和訳
暑熱環境または激しい運動による水分または塩分の欠乏による軽度~中等度の疾病。症候として,強い口渇,脱力感,不快感,不安,めまい,失神,頭痛が挙げられる。体温は正常,正常未満,またはわずかに上昇する(37℃以上40℃未満)。
と定義されています1)。
一方,日本救急医学会熱中症分類2015ではⅡ度は中等症で,熱疲労に相当する,と記載されています。熱疲労は主に頭痛,嘔吐,倦怠感,虚脱感,集中力や判断力の低下といった症状と対応していますが,図1のように日本の熱疲労(Ⅱ度)はBouchama基準より少し狭い概念となっています2)。

この患者さんを熱疲労と診断する
救命救急センターではなく,一般の外来診療で診る(救急車ではなく歩いて病院を受診する)熱中症患者さんで最も多いのは,以下の特徴を持つ熱疲労だと私は思います。
熱疲労患者さんの特徴は,日本救急医学会熱中症分類2015に記載されている,頭痛,嘔吐,倦怠感…。典型例は,
● 暑い日の
● 夕方から夜にかけて救急外来を受診する
● 頭が痛い
● 吐き気,嘔吐
● だるい
患者さんです。まずはこの患者さんに,その他の疾患の可能性を除外した上でしっかりと熱疲労と診断することです。
Bouchama基準の熱疲労では,強い口渇,脱力感,不快感,不安…と続きますが,我々の日常診療に当てはめると,いったいどんな患者さんか,よくわかりませんね。
熱疲労の患者さんはどう治療する?
『熱中症診療ガイドライン2015』2)にも,治療として以下の3原則(図2)が記載されています*1。『熱中症診療ガイドライン2024』ではPassive Coolingという名前で記載されていますが,よりわかりやすい『2015』でご紹介します。治療の3原則であり,この3つをすべて行うことが重要なのです。2つではなく,3つすべてです!

図2に示した通りですので,熱疲労の患者に対しては,冷たい生理食塩水(+制吐薬)を点滴して,ひと休みしてトイレに行かせて帰宅させる。これで良いと思います。
たとえば「救急外来が忙しくて,患者さんが経口で水分が摂れているので経口で飲んでもらうようにした」などのパターンが実臨床ではあるのですが,それでは安静の要素が不十分です。3つの原則に沿って診療をするのは当たり前のことですが,案外端折って2つだけで済ませたりしますね。私にも経験があります。
あともう1つ,当たり前のようですが認識しておくべきことがあると私は思います。それは「回復までの時間」です。図3をイメージしてください。
熱疲労は図3Aのような状態です。陽に当たりすぎて脱水になって萎れてしまった植物をイメージしてください。これに水をあげてもすぐには図3Bのように元気にはなりませんね。時間が必要です。人間も同様で,回復するまでにはある程度の時間がかかること,だいたい翌日の朝にはある程度元気に回復するであろうことをご本人に伝えておくことが必要です。ですから,救急外来で完全回復まで得ることは困難であることを医療従事者は認識しておくことが肝要です。
*1 正確には3原則のような強いトーンではなく,さらっと記載されています。

熱疲労患者はどうして頭痛を引き起こすの?
頭痛についてここで触れておきましょう。 日本気象協会によると,「炎天下や暑い室内で長時間労働やスポーツをすると,体温を下げようと大量に汗をかき,体内の水分・塩分が不足することで,血液の流れが悪くなります。その状態で,適切に水分・塩分の補給や身体の冷却が行われないと,脳や消化管,肝臓への血流低下や,それら重要臓器自体の温度上昇により,全身の倦怠感(だるさ)や頭痛,吐き気といった症状が現れてきます」とクリアに説明されています3)。その機序から,水分と塩分の補給や身体の冷却の重要性を訴えています。また,ロキソニンなどは腎臓の血流を低下させるために投与しないほうが良いとされています。欧米の教科書もほぼ同様の記載です。
ただ,日常臨床の経験から,脱水状態の患者さんすべてが頭痛をきたすわけではなく,熱疲労にある程度特有の症状だと思います(もちろん,髄膜炎や感染症の発熱状態でも頭痛は生じますが…)。この辺りの熱疲労が頭痛を起こす機序,熱疲労に伴う頭痛の治療薬はまさしくunmet needsであり,今後の研究が必要な部分ですね。
文 献
1)Bouchama A, Knochel JP:Heat stroke. N Engl J Med. 2002;346(25):1978-88. PMID: 12075060
2)日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2015.
[https://www.jaam.jp/info/2015/pdf/info-20150413.pdf](2025年4月18日閲覧)
3)日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト. 熱中症について学ぼう:症状. 頭痛・吐き気も熱中症の症状の一つ.
[https://www.netsuzero.jp/learning/le01/case03-01](2025年4月18日閲覧)
(本稿は,熱中症診療の最前線で活躍する著者が,熱中症の予防から治療までを科学的根拠に基づいて解説した『熱中症の謎となぜ』(一二三 亨著)の一部を抜粋・編集したものです。)
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