Answer
『熱中症診療ガイドライン2024』1)で新規に規定されたqⅣ度*1と判定されるような重症例には要注意です。病院での深部体温測定とActive Coolingを含めた集学的治療を行う必要があります。
*1 表面体温40℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS 8以下(もしくはJCS 100以上)。
熱中症は自然災害のように思われがちですが,状況によっては事故として法的責任が問われることがあります。本稿では,とくに病院が訴えられた実際の裁判例2,3)をもとに,争点や判決の内容を振り返ります。
熱中症裁判 事例12)
福岡地裁 平成15年
争 点
熱中症で倒れた高校生Aに対する適切な冷却処置が行われなかったため,Aが死亡した件に関して,遺族がX市に対し損害賠償を求めた裁判です。
事 案
高校生Aは炎天下での野球部の練習中に倒れ,体温が39.9℃で市立X病院に搬送された。病院到着時点で高校生Aは意識障害や高体温があったが,担当のB医師はすぐに適切な冷却処置を行わず*2,氷囊を使った冷却のみが実施された。入院時の意識レベルはJapan Coma Scale(JCS)100,高校生Aの体温は一時的に下がったが,再び上昇し,翌日には肝不全,腎不全,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を認め大学病院へ転院されたが,脳死状態となり,最終的に死亡した。
裁 判
高校生Aの遺族は,X病院が適切な冷却処置を怠ったため高校生Aが死亡したとしてX市に対し損害賠償請求訴訟を提起しました。裁判所は,熱射病に対しては緊急措置が必要であり,直ちに冷却を行わなかったことが過失であると認定し,4,413万円の賠償を命じました。裁判所は,氷囊法だけではなく蒸散冷却法や冷却輸液の投与など,より効果的な冷却方法を併用すべきであったとし,X病院の対応が医療水準に達していなかったと判断しました2)。
*2 救急外来では冷却処置が行われず,入院後に氷囊による冷却が開始されました。
この事例からは,やはり適切な冷却方法による初期対応が行われなかった場合には過失とみなされる,ということがわかります。
熱中症裁判 事例23)
静岡地裁 平成6年
争 点
マラソン中に倒れた高校生Cに対し,適切な診察と治療が行われなかったとして,遺族がY医師に損害賠償を求めた裁判です。
事 案
高校生Cはマラソン中に意識を失って倒れ,直ちにFスピードウェイの救急室に運ばれ,学校医師団により輸液,酸素投与を受けた。しかし,意識レベルが不安定なことからY脳神経外科医院に救急搬送された。搬入時,Y医師は他の患者の脳動脈瘤クリッピング手術の途中であった。手術終了後に診察し,CTでは頭蓋内出血を認めず,経過観察入院とした。入院時意識レベルはJCS 100程度であった。高校生Cは入院後に体温40℃にまで達し,さらに大量の下痢を認めた状態でマンニトール250mLを2回,脳浮腫予防目的で投与した。その後ショック状態に陥り,蘇生行為が行われたが死亡した。
裁 判
Y医師は高校生Cを単なる脳振盪と診断し,必要な検査や経過観察を十分に行いませんでした。また,高校生Cに対して脱水状態が考慮されず,利尿薬であるマンニトールが投与された点も過失とされました。高校生Cは最終的に熱射病や脱水,多臓器不全で死亡し,裁判所は医療過誤による責任を認め,6,102万円の損害賠償を命じました3)。
この事例は,救急医の視点からすると,意識障害の精査のため脳神経外科に搬送されたこと,またその担当医も手術中であったことなど,単純な医療過誤以外の様々な要素を含んでいると思います。その当時は卒後臨床研修も必須ではなく,脳神経外科医は卒後ダイレクトに脳外科を専攻するシステムであったことから,脳振盪の対応に主眼が置かれてしまい,熱中症対応が十分ではなかった事例です。卒後臨床研修が必修化された現在では,プライマリ・ケアレベルでの治療も裁判でより厳しく判断されることが多いです。我々も当直バイトなどの際に患者の引き継ぎがありますが,前医からの意見のみならず,自分でもう一度判断することが肝要であるという教訓です。

文 献
1)日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2024.
[https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf](2025年4月18日閲覧)
2)医療安全推進者ネットワーク:No.335 「野球部の練習中に高校生が熱射病に罹患し,その後多臓器不全により死亡。適切な冷却を行わなかった過失があるとして,救急搬送先の市立病院側に損害賠償を命じた地裁判決」.
[https://www.medsafe.net/precedent/hanketsu_0_335.html](2025年4月18日閲覧)
3)医療安全推進者ネットワーク:No.334 「全校マラソン中に熱射病に罹患し転倒した高校生が,救急病院の医師により脳震盪と診断され,入院後に死亡。救急病院の医師に診察,薬剤投与,全身状態の観察不十分の各過失があるとして遺族への損害賠償を命じた地裁判決」.
[https://www.medsafe.net/precedent/hanketsu_0_334.html](2025年4月18日閲覧)
(本稿は,熱中症診療の最前線で活躍する著者が,熱中症の予防から治療までを科学的根拠に基づいて解説した『熱中症の謎となぜ』(一二三 亨著)の一部を抜粋・編集したものです。)
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