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お風呂での意識障害は熱中症が原因?【熱中症の謎となぜ】

登録日: 2026.07.24 最終更新日: 2026.07.28

一二三 亨 (杏林大学医学部総合医療学 救急総合診療科 准教授)

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Answer
入浴事故の主たる病態は,高温環境曝露が引き起こした高体温による熱中症であると考えられています。

 冬場を中心に,入浴中に意識を失ったり,亡くなったりする「入浴事故」が毎年多く発生しています。本稿では,日本法医学会や日本救急医学会の調査結果,近年の研究をもとに,入浴関連意識障害・入浴関連死の原因を整理し,熱中症との関係について考えます。

入浴事故(入浴関連意識障害,入浴関連死)?

 お風呂に入ると気持ちよくて,私自身も40歳を過ぎた頃から,浴槽に浸かったまま寝てしまうことがよくあります。ふと,このまま溺没したら死んでしまうのか…と思うこともあります。幸い,お風呂の温度もそれほど高い温度に設定していないので,どこかで目が覚めるわけですが,救急の仕事をしていると,浴槽内での心停止はよく経験します。浴槽内で寝てしまったのも軽い意識障害と捉えると,「入浴関連意識障害や入浴関連死って,本書の熱中症と何か関係があるの?」と疑問に思われる方がほとんどだと思います。そこで,厚生労働科学研究成果データベースの報告書(アンケート調査研究)1)をもとに一緒に考えていきたいと思います。

入浴関連意識障害のメカニズム?脳血管障害? 心疾患? 飲酒? 熱中症?

 従来は,入浴中に意識障害が起こる原因として,脳血管障害や心疾患,飲酒などが考えられてきたわけです。これは読者の皆様も何となく具体的に想像がつくと思います(図1)。そのような背景の中,2012年に慶應義塾大学医学部救急医学 堀 進悟教授のもと,「入浴中の意識障害,心停止などの入浴事故の本態は何なのか?」に迫るため,日本法医学会,日本救急医学会,日本温泉気候物理医学会の3学会にわたる大規模な調査が行われました。そのうちの日本法医学会,日本救急医学会の2学会のアンケート*1調査結果を簡単にご紹介します。

*1 日本温泉気候物理医学会アンケートは質的情報が多く,死亡が高齢者に多く,場所は浴槽内が多いなど,以前から知られた情報で,死因検索に有用な情報はなかった1),と報告書には記載されています。

日本法医学会のアンケート調査結果1)

 法医解剖・死体検案の浴槽内死亡事例アンケート調査を行い,1,441例の回答がありました。死因の種類としては病死39%,不詳の外因死35%,不詳の死17%でしたが,それとは別に直接死因は溺水・溺死が62%と多数を占め,病死の中にも水の吸引が認められました。死因となる傷病が認められた事例は全体の49%であり,逆に言えば,浴槽内死亡の半数は死因となる傷病を認めていないことが明らかになりました。アルコールが死亡に影響していると考えられた事例は13%で,薬物は全体の3%でした1)

日本救急医学会のアンケート調査結果1)

 入浴関連事故のアンケート調査によると,2012年に東京都,山形県,佐賀県で救急要請された入浴事故の総件数は4,596件(転帰判明3,690件)で,浴槽内心停止は1,208件(高齢者入浴事故の33%)でした。浴槽内から自力で出られず救助を要した件数は935件で,意識障害と脱力が主訴のほとんどでした。診療情報の得られた745件中,くも膜下出血は7件,脳出血は26件,心房細動35件,急性心筋梗塞は1件,心室頻拍は1件でした。脳血管障害や心疾患はわずかで,ほとんどは意識障害,一過性意識障害,脱水などで器質的診断に至りませんでした1)

入浴事故の機序に関する最新の知見

 3学会でのアンケート調査結果をもとに詳細な解析の結果,入浴事故の主な病態は高温環境曝露による高体温が原因で生じた熱中症であり,脱力や意識障害のために浴槽外への脱出が困難となり,さらに体温が上昇するという悪循環に陥り死に至る,との結論となっています(図21)

 その理由としては,
①浴槽内から自力で出られず救助を要した症例は,そのほとんどが軽度意識障害と高体温,頻脈で,温浴環境から離脱して短時間で軽快している,つまり脳の器質的原因を伴わない意識障害であったこと。
②CTや心電図で把握した脳血管障害,心疾患は実際の症例数としては非常に少ないこと。
③心停止は体温が上昇しやすい環境と溺没・溺水が強く関係していること。
などが挙げられています。

熱中症と入浴関連意識障害,入浴関連死に対する一考察(私見)

 厚生労働科学研究成果データベースの報告書(アンケート調査研究)では,疫学的,あるいは剖検所見をもとに詳細な検討がなされています。しかしながら,熱中症の病態の大きなpathwayである凝固線溶マーカーでの検討が残念ながらありませんでした。そこで今後は重症熱中症患者のバイオマーカーの急性期変化をもとに,この入浴関連意識障害,入浴関連死の主たる機序が熱中症であるかどうかを考える必要がありそうです。死亡例が図21)のように意識障害ののちに溺水,重症熱中症,心停止を呈しているのであれば,凝固系の異常亢進から線溶系の異常亢進を伴っているのかどうかを確認したいところです。また,呼びかけると覚醒するほどの軽度意識障害で溺没にまで至るのかどうかも,現時点では正直なところわかりません。これらを今後確認できると,入浴関連死の主原因が熱中症によるものであるということを,さらに確固たるものにできると思います。

文 献
1)堀 進悟(研究代表者):入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究. 厚生労働科学研究成果データベース. 2015.
[https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/22685](2025年4月18日閲覧)

(本稿は,熱中症診療の最前線で活躍する著者が,熱中症の予防から治療までを科学的根拠に基づいて解説した『熱中症の謎となぜ』(一二三 亨著)の一部を抜粋・編集したものです。)

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