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熱中症にならない身体づくりってあるの? 暑熱順化にサウナは有効?【熱中症の謎となぜ】

登録日: 2026.07.18 最終更新日: 2026.07.18

一二三 亨 (杏林大学医学部総合医療学 救急総合診療科 准教授)

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Answer
暑熱順化について,現時点でアスリート以外の高齢者に対する熱中症発症予防や重症化予防効果は不明です。日本では5月頃から遅くとも6月中旬には少しずつ暑さに身体を慣らすのが良いですよね。サウナなどもエビデンスはありませんが,原理としては暑熱順化に大変良い環境だと思います。

 熱中症を防ぐために「暑熱順化」が重要と耳にする機会も増えましたが,本当に効果はあるのでしょうか。暑熱順化の仕組みや期待できる効果,実践方法,始めるタイミングについて,科学的な知見をもとに解説します。

暑熱順化とは?

 暑熱順化とは,「熱ストレスに繰り返し曝露されることで熱耐性を向上させる生理的適応をもたらす過程のことである」と定義されています1)。簡単に言うと,暑くなる前に何らかの方法で暑さに身体を慣らしておくということですよね。

そもそも暑熱順化は有用?

 『熱中症診療ガイドライン2024』1)では,「“熱中症の発症および重症化リスクの減少に,暑熱順化は有用か?”というclinical questionに対して,推奨として推奨決定会議にてFRQに変更することに満場一致で合意した」とあります。FRQはfurther research questionの略で,「系統的レビューを行っても確実性の高いエビデンスに基づく推奨作成が困難であるもの」とされていますので,要は「エビデンスはないよ,現時点では。ただし,今後この分野の研究をぜひともやってみてね」とガイドライン委員会が言っているようなものです。
 ここで,もう少し見方を変えてみます。私自身は今までガイドライン作成を担当させていただいたので,多少見えるところがあります。それは,COVID-19に対するワクチンでもそうですが,“熱中症の発症および重症化リスク”という観点からみると,本来この発症予防と重症化予防は別々に考えて良いということです。研究がたくさん出てくればこれを別々に考えて,発症は予防できないが重症化は予防できる,みたいな話も今後は出てくると思います。

暑熱順化の効果(私見)

 ズバリ,私の意見としては,暑熱順化は効果があると思います。科学的な根拠はないのですが,今まで20年以上救急の臨床をやりながら熱中症の研究を行ってきた経験論プラス勘です。ヒトも動物ですので,環境に慣れるということは今まで勝ち得てきたものですし,実際に熱中症患者が暑くなり始めに多いのも順化していないから,と単純に捉えることもできます。
 暑熱順化はどちらかというと発症予防に対する効果のようにも思います。ただ,次に示す暑熱順化の方法は,IOC(国際オリンピック委員会)コンセンサス2)という形で公表されていることからも,アスリートを対象としたものであり,日本に多い,高齢者を対象としたものではないことが前提です。そのため,今後我々がしっかりと,日本の現状に即した安全で効果的な方法を探していく必要がありますね。

暑熱順化の方法は?

 IOCコンセンサス2)では,推奨事項として,

競技者は,暑熱環境下で競技を行う前に暑熱順化を行うべきである。
 暑熱順化の好ましい方法は,競技時と同様の暑熱環境下でトレーニングを行うことであるが,それができない場合は,体幹および皮膚温を上昇させ,大量の発汗を促し,皮膚血流を増加させる他の方法(たとえば,過着衣トレーニング*1,受動的熱曝露)を代替方法として用いることができる。

*1 厚着をして発汗するトレーニング。

とあります。
 また,同コンセンサス2)には,

暑熱順化セッションとは,深部体温が38.5〜39.8℃の間で少なくとも60分間,皮膚温,発汗,皮膚血流が上昇した状態で暑熱運動を行うことである。

とあります。

 これ以外に私が思いつく暑熱順化の方法として,流行りのサウナなども,より安全で効果が期待できそうです(図1)。サウナに行く人ほど熱中症になりにくいといった研究仮説が思いつきますが,このような仮説は疫学研究である程度解析ができるので,まずこのようなところの研究成果を待ちたいと思います。

いつからやる?

 IOCコンセンサス2)では,

暑熱順化のための最適な熱トレーニング/曝露時間は,1日あたり60~90分,少なくとも2週間であるが,これより短い時間やそれ以外の時間でも,強力な暑熱順化のプラスの変化を引き起こすことは可能であり,最適でないという前提で捨ててはならない。暑熱順化の原理は比較的よく理解されており,1~2週間暑熱の中でトレーニングを行えば,パフォーマンスが向上することが明らかに示されている。

とあります。つまり,アスリートの場合には2週間ということですよね。1日あたり60~90分というのを見ると,サウナやスパなどが良いようにも思います。高齢者などを想定すると,よりゆっくりと長い時間をかけて身体を慣らしていくほうが良さそうですね。そう考えると,日本では,5月くらいから徐々に暑さに身体を慣らしていくのが良いと思われますし,遅くとも梅雨明けの1カ月前とすると6月中旬には暑さに身体を慣らしておく必要がありそうです。

文 献
1)日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2024.
[https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf](2025年4月18日閲覧)
2)Racinais S, Hosokawa Y, Akama T, et al:IOC consensus statement on recommendations and regulations for sport events in the heat. Br J Sports Med. 2023;57(1):8-25. PMID: 36150754

(本稿は,熱中症診療の最前線で活躍する著者が,熱中症の予防から治療までを科学的根拠に基づいて解説した『熱中症の謎となぜ』(一二三 亨著)の一部を抜粋・編集したものです。)


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