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溺水

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-04-13
竹川良介 (大阪大学医学部附属病院高度救命センター)
小倉裕司 (大阪大学医学部附属病院高度救命センター准教授)
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  • ■治療の考え方

    溺水患者の治療にあたる上で大切なのは,誤嚥により生じる肺コンプライアンスの低下と肺換気─血流ミスマッチの発生,肺内シャントの発生による低酸素血症とそれに引き続き生じる臓器不全をどのように治療するかである。

    ■病歴聴取のポイント

    【発症様式】

    わが国では他国と比べ溺死率が高率である。年齢構成を調整した死亡率(年齢調整死亡率)を算出しても,溺死率は高い。これは,わが国の入浴習慣や住環境に原因があるとされており,特に12月~2月の冬季に溺死者が多い。近年,もともと溺水による死亡率が高い高齢者の増加に伴い,年間溺死患者数は増加している。今後,人口の高齢化により溺水および溺死症例はさらに増加することが予想される。

    【種類】

    かつては溺水が,海水・淡水どちらで生じたかが重視された。前者であれば,海水の高浸透圧により肺水腫や血清浸透圧の上昇をまねき,後者では反対に血管内容量過剰や電解質稀釈に至るとされた。ただし,血管内容量の変化には11mL/kg,電解質変化には22mL/kgと多量の誤嚥が必要であり,非致死性の患者では3~4mL/kg以上の誤嚥は稀であることから,もはやこの区別は重要でない。どちらの溺水においても肺の界面活性剤が洗い流され,非心原性肺水腫や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至ることが重要視されている1)

    ■バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    誤嚥による低酸素血症の評価のため,呼吸数,呼吸様式,酸素飽和度を観察する。

    二次性の体温異常を生じることがあるため,体温測定を行う。

    低体温や低酸素血症の結果として,不整脈がしばしばみられる。

    低酸素や虚血により,神経損傷による脳浮腫や頭蓋内圧亢進を生じうるため,意識レベルの観察を行う。

    【身体診察】

    主には,誤嚥による低酸素血症の結果としての臓器障害を評価することになる。呼吸不全は,緩徐にも急速にも生じうるため,息切れやcrackles,wheezingといった徴候と症状に注意する。

    脳へのダメージの結果生じる意識障害など,神経学的な評価が必要である。

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