ガス中毒では発生状況から原因物質を推定することが重要である。一般に吸入毒は気道・肺実質への直接の損傷と,全身毒性による中枢神経障害,循環不全などを呈する。一酸化炭素中毒を疑う場合,速やかにリザーバーマスクで10L/分以上の酸素投与を開始する。
ガス中毒は曝露を疑う病歴を聴取することで診断に至ることが多く,特に環境・集団発生・曝露時間は必ず聴取する。
換気不十分な場所での練炭の使用,火災による煙の吸入などが疑われる場合に一酸化炭素中毒を疑う。特に火災現場では,シアン中毒の合併や気道熱傷の可能性を考慮する。一酸化炭素中毒では,頭痛,嘔気,めまい,失神,錯乱などの症状が出現する。また,心筋虚血による胸痛を訴えることもある。
温泉(硫黄泉)の近隣,腐卵臭を伴う密閉空間での発生では,硫化水素中毒を疑う。工場では,特殊なガスの発生が疑われ,現場担当者から使用物質を聴取する。溶接現場では,金属フューム(亜鉛,マンガン,カドミウムなど)の吸入を疑う。次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤と塩酸を含む洗剤を混ぜてしまった場合や,プールサイドでの消毒剤の使用で,塩素ガス中毒が起こりうる。
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