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アルツハイマー病治療における加味帰脾湯の可能性【有効性を認める報告が数多くあり,今後選択肢のひとつとなると考えられる】

No.4854 (2017年05月06日発行) P.54

河尻澄宏 (東京女子医科大学東洋医学研究所)

登録日: 2017-05-04

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アルツハイマー病(AD)は最も有病率の高い神経変性疾患であり,治療の開発が望まれている。現在,治療薬にドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体アンタゴニストが使用されているが,効果は限定的である。漢方薬における役割として,生薬「陳皮」の成分ノビレチンの記憶障害改善作用については2016年11月の本欄(No.4829)で取り上げられているが,ここでは加味帰脾湯について紹介したい。

加味帰脾湯の使用目標には比較的虚弱な者の不眠症,不安障害,神経症,動悸,貧血に加え,健忘がある。そして構成生薬のひとつ「遠志」の主治は,『神農本草経』に「不忘」と記載されている。16年のIshidaの論文1)では,AD患者に対し,ドネペジル単独治療6例で12カ月後のmini-mental state examination(MMSE)スコアの平均値がベースラインよりも低下したのに対し,加味帰脾湯+ドネペジル併用治療6例では低下はみられなかった。MMSEの内訳では,遅延再生改善効果に有意差が認められていた。加味帰脾湯にはADモデル動物の軸索・プレシナプス変性の改善効果や,コリンアセチルトランスフェラーゼの活性化が報告されており,また「遠志」でのADモデル動物の神経細胞保護効果も報告されている。

症例数が少ないため今後の研究の発展に期待したいところであるが,AD患者では加味帰脾湯の上記使用目標を有することが多く,加味帰脾湯の使用は1つの選択肢となると考える。

【文献】

1) Ishida K:Traditional&Kampo Medicine. 2016;3 (2):94-9.

【解説】

河尻澄宏 東京女子医科大学東洋医学研究所

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