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「俺が死んだらここを見ろ」[プラタナス]

No.4840 (2017年01月28日発行) P.1

岡本拓也 (聖ヶ丘サテライトクリニック院長)

登録日: 2017-01-27

最終更新日: 2017-01-26

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  • 今から3年前に、80歳目前の義父を主治医として看取った。

    普段から我慢強く、まず病院にかかったりすることのない義父が、年明け早々に「具合が悪い」と言って近くの総合病院を受診した。極度の貧血。献血が趣味で日本赤十字社から表彰されたこともある義父は、この時初めて血をもらう立場になった。直ちに内視鏡検査が行われ、その日のうちに胃癌・肝転移の診断がついた。持続的な出血があったため、緊急の動脈塞栓術が行われ、待機的に胃全摘術が行われた。

    その後、これからの治療をどうするかという話になり、私も家族の立場で説明を聞きに行った。結局、主治医の口からは抗癌剤治療の目的については一切語られることなく、抗癌剤治療のスケジュールだけが一方的に説明された。抗癌剤治療はがんを治すための治療であるかのような口ぶりであった。

    しかし、抗癌剤治療をするならば、仮に副作用はコントロールできたとしても治療や検査のために病院に拘束される時間は多くなる。しかも、それは義父自身が勘違いしているであろう「治癒を目指す抗癌剤治療」ではなく、あくまでも何カ月かの「延命を目指す抗癌剤治療」だ。医学的知識のない義父は、治療医に言われるがままベルトコンベアーに乗せられて、抗癌剤治療のコースに運ばれていこうとしていた。

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