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がん免疫療法はがん治療の第4の柱になったか? [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.45

西川博嘉 (国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野/先端医療開発センター免疫TR分野分野長、名古屋大学大学院医学系研究科微生物・免疫学講座分子細胞免疫学教授)

登録日: 2017-01-02

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がん免疫療法は、生体内の免疫系ががん細胞を異物とみなして攻撃することを利用して「がん」を治療しようという試みで、外科的治療、化学療法、放射線療法に続く第4のがん治療法として注目を集めている。「免疫反応が起こるとがんが縮小する」ことは、William B. Coley博士により約1世紀前に報告された。その後、がんに対する免疫応答を強化してがん治療に結びつけようという研究が続けられてきたが、ヒトがん抗原を世界で初めて報告したThierry Boon博士は、“Success has been too rare for one to be convinced, but too frequent for one to give up.”とその状況を評した。

免疫系は「抗原」を識別することで、ウイルス抗原には反応するが自己抗原には反応しない。免疫系はがん細胞が持っているがん抗原を見分けて攻撃するが、がんは免疫系から攻撃されないように、1)自己もどきになって、免疫系に見分けられないようにする、2)免疫を抑制する要素をがん局所に取り込んで免疫系の攻撃を抑制する、ことで免疫系による攻撃から逃避して増殖している。

近年免疫チェックポイント阻害薬が臨床応用され、これらの免疫チェックポイント分子と呼ばれる免疫抑制分子シグナル(PD-1やCTLA-4)をブロックすることで、免疫系による攻撃を逃避したがん細胞への攻撃能力を回復させ、がん縮小、全生存期間の延長に導くことに成功している。

このようにがん免疫療法は、がん治療法として一翼を担うようになりつつあるが、依然として単剤では20%程度、併用でも半数にも満たない患者にしか臨床効果が認められない。また高額な医療費といった点からも、臨床効果が認められる患者を層別化するとともに、効果が見られない患者には新たながん免疫療法を開発していく必要がある。がん免疫療法では、レセプター/リガンド(PD-/PD-L1など)といった単純な構図でのバイオマーカーの同定は難しいことが明らかになり、患者個々のがん細胞および免疫系の両者の多様性を考慮した統合的な解析が必要であり、AI(人工知能)による患者個人に対するがん免疫療法を含めた適切ながん治療の予測を実施し、次世代の個別化医療としての展開が枢要となる。

現状では「がん免疫療法はがん治療の第4の柱になったか?」は、“half-yes”の状況であり、熾烈な開発競争の中で、わが国の高い免疫研究レベルを示していかなければならない。

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