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風を読む [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.94

玉木長良 (北海道大学大学院医学研究科核医学分野教授、第75回日本医学放射線学会総会会長)

登録日: 2017-01-03

最終更新日: 2016-12-26

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空気読む(KM)という言葉が最近はやっています。KMのできない人は若い人の間で軽蔑されるようです。周囲の空気を読むことも大切でしょうが、それよりも社会の風潮と今後の動向ともなる“風を読む”ことは、社会人としてより大切です。社会で求められることを認識すること、周囲の人間関係、あるいは種々の社会活動の中でどの点が問題になっているかを把握して、問題意識を共有することなど、風を読む場面はあちこちに見られます。このような風を読む姿勢は、今後社会人としてますます重要性を帯びてきます。また、この風を読むための修練も必要です。

私は学生時代、ヨット部に所属し、学生生活の大半を部活に費やしていました。ヨットは風を利用して走ります。部活ではヨットの技術はもちろん、風を読む訓練を徹底して受けました。ヨットを効果的に走らせたり、試合に勝つためには、風を読むことが求められます。ヨットレースでは、まずはどの位置でスタートラインを切るかで、その後のレースが大きく左右されます。他方、第一目標(風上)までは、自由に好きなコースを選び進んでいきます。その時にどのように風を呼び込むかが、その後のレースを左右するのです。

レースの途中では何度も相手と競り合い、駆け引きをしていきます。私たちの乗るヨットは二人乗りの小型ヨット(ディンギー)で、強風下でひっくり返る(沈する)こともしばしばあります。その時は自分たちでヨットを起こしてレースを続けていきます。強風下では沈するぎりぎりのところまで風を受けて速く走ろうとします。また途中沈をしても、その後のレース運びによっては最終的にレースで上位に食い込むこともあります。

部活を通して風を読み、風を有利に取り込むことの大切さを痛感しました。ヨット部に所属していた仲間たちは、皆上手に風を読み込んで上手なかじ取りをしていったように思えます。また、レースは相手あっての勝負なので、自分が少しでも有利なコースを進めるように激しい競争の中で自己主張をすることもしばしばあります。他方、激しい競争は避けて、自分ひとり有利な風を読み込んで、独自に走りこむこともあります。

人生レースも同様で、有利なスタートを切ることはもちろん大切です。その後はいろいろな経験を積みながら、風を読みつつ、最終的には人生のゴールをめざして様々な進路を歩んでいくのでしょう。人生は必ずしも順風満帆というわけにはいきません。コースのたどり方はいろいろあるでしょうが、結果をしっかり予測しつつ、有終の美を飾りたいものです。また、沈して大幅にマイナスになることがあっても、その後挫けずに人一倍努力を続け、最終的に魅力ある人生を過ごすこともあります。思いがけない人生の道が大きな成果を挙げることもあります。また、最終ゴールだけでなく、ゴールに至るまでどのような経過をたどっていくのかも重要でしょう。

私自身、このクラブ活動を通して体と共に頭を使い、風を読んで自分にあったベストの進路を進む人生の糧を習得したのかもしれません。レースの終盤を迎えようとしていますが、これまで紆余曲折はありましたが、最終的には価値あるコースを進んできたように思えます。これから社会人としてレースに臨まれる方々はもちろん、レース半ばの方々も、ぜひ上手に人生の風を読んで、魅力あるかじ取りをして頂きたいと願っています。

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