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忘れてはいけない症例 [プラタナス]

No.4812 (2016年07月16日発行) P.3

赤石 誠 (東海大学医学部付属東京病院病院長 東海大学医学部循環器内科教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-23

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  • 今から10年以上前の話である。63歳の女性が胸痛を訴えて来院した。左腋窩から乳腺にかけての痛みである。問診から、心筋虚血の症状とは明らかに異なっていた。心電図、採血検査、胸部X線写真でも異常所見はなかったので、経過をみることにした。その後、胸やら肩やらが痛いと言って、夜間に繰り返し来院するようになった。いつも他覚的所見を有しないため、精神的な症状と判断されることが多かった。患者の訴えはますます多彩となり、対応にあたる医師たちは、救急室の常連さんという感じで対応するようになった。この一連の診療の中で、私も何回か患者を診察し、患者の訴える胸のあたりの痛みは重大な疾患ではないと判断していた。そのうちに、患者が胸痛を訴える頻度も減り、症状も消失したのか、病院に顔をみせなくなった。

    3カ月後に、彼女は胸部の違和感で来院した。今度は、軽度の胸水が認められた。心電図は徐脈性の心房細動であった。写真はその時の心エコー図である。1週間後には、徐々に胸水も増加した。炎症反応は陰性であった。甲状腺機能も正常であった。心房細動は自然に洞調律に回復したが、ホルター心電図によると1日平均心拍数が48/分と徐脈であり、一過性の結節性補充調律(38/分)もみられた。この程度の徐脈で心不全をきたすとは考えにくかったが、それ以外の理由がなかったので、徐脈による心不全と考えて、ペースメーカを入れた。しかし、胸水は改善しなかった。

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