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赤道に近い国に高血圧患者は少ない?

No.4801 (2016年04月30日発行) P.65

古澤拓郎 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科東南アジア地域研究専攻生態環境論講座 准教授)

登録日: 2016-04-30

最終更新日: 2016-12-15

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【Q】

高血圧患者の血圧は,冬に高く,夏に下がることが多いようです。実際,夏季には降圧薬を減量ないしは中止する人が多くみられます。その事実からすれば,赤道に近い,いわゆる「常夏」の国では高血圧患者は少ないのではないかと思われるのですが,実際はどうなのでしょうか。疫学を知りたいと思います。(石川県 Y)

【A】

本態性高血圧は加齢,遺伝,環境,生活習慣が影響して起こるため,国や地域で比較する際には単純に有病率を比較するのではなく,年齢構成などを考慮しなければなりません。ここに示す図1は,世界保健機関(WHO)が公表しているもので,国の年齢構成の違いを調整した,18歳以上男性の高血圧(収縮期血圧140mmHg以上もしくは拡張期血圧90mmHg以上)有病率です(文献1)。日本は20.0~24.9%となっており,「平成26年国民健康・栄養調査」の結果(20歳以上男性の36.2%が収縮期血圧140mmHg以上)に比べると低くみえますが,高齢者が多いことが調整された結果です。さて,この図を見てみると,インドネシアなど熱帯の東南アジアは日本と同じ20.0~24.9%であり,インドや北アフリカはそれより高い25.0~29.9%,そしてアフリカ大陸の赤道付近ではさらに高い30.0%以上となっています。ロシアや東欧諸国でも高くなっていますが,ここに示していない女性版(文献2)では寒冷地方は低く,熱帯での高さが顕著になります。常夏の国では高血圧が少ないという傾向はなさそうです。
ところで,高血圧の遺伝要因もいくつか既に知られています。興味深いことに,多くの研究では遺伝的にハイリスク型の人は赤道付近に多く,そこから北・南に離れるごとに少なくなることが指摘されています。これには進化論的な仮説が立てられています。我々ホモ・サピエンスの祖先は,10万~20万年前に熱帯アフリカで誕生しました。熱帯では発汗により体温を逃がし,体内温度を一定に保ちます。しかし,汗をかくと水分とともに塩分などミネラルが失われます。水分もさることながら,自然環境から塩分を集めるのは容易ではないので,塩分を効率よく摂取・利用できるように生理的に適応したと考えられ(アンジオテンシノーゲン遺伝子など),塩味を美味しいと感じるのも,このためだと言われています(文献3,4)。
ただし,お店で塩がいつでも手に入る現代では,これは高血圧のリスクになります。人類は6万年ほど前にアフリカ大陸の外に出て,長い時間をかけてシベリアやアラスカのような寒い環境にも進出しました。寒冷刺激も血圧を上げますが,さらにそこに熱帯由来の遺伝機能が残っていると生存上不利になるため,ハイリスク型の人は減ったと考えられます。この仮説は,上記のように熱帯地方では発展途上国であっても,高血圧有病率が高いことをうまく説明しています。最後に,ご質問の通り,日本では夏季に血圧が低下する患者が多くいることが知られています。ただ,拡散と進化の歴史の中で,人類は熱帯地方から来たことから考えると,「夏に下がる」のではなく,「冬に上がる」ということなのかもしれません。

【文献】


1)[http://gamapserver.who.int/mapLibrary/Files/Ma/Global_BloodPressurePrevalence_2014_Male.png]
2)[http://gamapserver.who.int/mapLibrary/Files/Maps/Global_BloodPressurePrevalence_2014_Female.png]
3)Young JH:Curr Hypertens Rep. 2007;9(1):13-8.
4)Nakajima T, et al:Am J Hum Genet. 2004;74(5):898-916.

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