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心電図におけるJ-point上昇と 生命予後の関係

No.4750 (2015年05月09日発行) P.58

久松隆史 (滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門/ アジア疫学研究センター)

三浦克之 (滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門 教授/アジア疫学研究センター長)

登録日: 2015-05-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

心電図上のJ-point上昇は,生命予後と関連があると言われていますが,その詳細をご教示下さい。 (東京都 S)

【A】

心電図上のQRS-ST接合部J-point(J点)の上昇は,早期再分極とも言われ,従来より一般的には正常亜型の心電図所見と考えられてきました。しかし,2008年,世界22センターより集められた致死性不整脈(特発性心室細動)による心肺蘇生後患者群206名について年齢・性別などをマッチさせた対照群412名と比較した症例対照研究結果が報告され,患者群においてJ点上昇の有所見率が有意に高いことが判明し(文献1),心電図上のJ点上昇は心臓病死亡,特に致死性不整脈による心臓突然死と関連があることが示唆されました。
さらには,2009年,フィンランドの30~59歳の一般住民約1万人における30年にわたる前向きコホート研究より,心電図上のJ点上昇を有する者において,有さない者と比較した場合,心臓病死亡リスク,特に不整脈死亡リスクの有意な上昇を認めました(文献2)。
以後,様々な人種から同様の報告がなされ,わが国の一般住民におけるコホート研究からも心電図上のJ点上昇は心臓病死亡および心臓突然死と関連があることが報告されています(文献3,4)。
心電図上のJ点上昇は,健診や日常診療でもたびたびみられる心電図所見です。一般住民におけるコホート研究からの報告によると,その有所見率は1~13%程度と幅広く,年齢,性別,運動習慣といった対象者特性やJ点上昇の定義などの違いによると考えられます。また,この有所見率は,若年者,男性,アスリートなどにおいてはさらに高くなります(文献5)。
現在,このJ点上昇のリスク層別化に関する様々な研究がなされており,心電図上のJ点後ST部分の形態に着目した検討では,J点上昇に続くST部分が水平または下降しているタイプは特に不整脈死亡のリスク増加と関連があり,一方,ST部分が上昇しているタイプではリスク増加との関連が認められませんでした(文献6)。
心電図上J点上昇を有する患者の管理についてですが,致死性不整脈を引き起こす割合(絶対リスク)は0.1%未満とされており(文献5) ,現時点では,無症候性のJ点上昇については一般的に経過観察でよいと考えられます。一方,失神などの既往のある有症候性J点上昇や,心臓突然死などの家族歴を伴うものはリスクが高いとされており,循環器科などの専門科での精査・治療が必要です。
また,心電図上のJ点上昇は急性心筋梗塞後の心室性不整脈や突然死のリスク増加と関連があることも報告されています(文献7)。
したがって,心電図上J点上昇を有する患者においては,高血圧,脂質異常症,糖尿病,肥満などの生活習慣病改善や禁煙により,心室性不整脈や突然死のトリガーとなりうる急性心筋梗塞発症を予防することも重要であると言えます。

【文献】


1) Haissaguerre M, et al:N Engl J Med. 2008;358(19):2016-23.
2) Tikkanen JT, et al:N Engl J Med. 2009;361(26):2529-37.
3) Haruta D, et al:Circulation. 2011;123(25):2931-7.
4) Hisamatsu T, et al:Circ J. 2013;77(5):1260-6.
5) Viskin S, et al:Heart Rhythm. 2012;9(4):566-8.
6) Tikkanen JT, et al:Circulation. 2011;123(23):2666-73.
7) Naruse Y, et al:Circ Arrhythm Electrophysiol. 2014;7(4):626-32.

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