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100歳の重み [プラタナス]

No.4778 (2015年11月21日発行) P.3

西岡洋右 (西岡記念セントラルクリニック院長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-08

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  • 暑い夏を迎えると必ず思い出す症例がある。それはクリニックを継承して数年目の夏、ある家族からの「母親を100歳まで生かしてあげてほしい」との依頼であった。

    元来健康な方だったが、3月に気胸にて入院。6月には肺炎、心不全増悪で入院加療を受け、7月上旬に退院後、訪問診療を希望された。入退院の繰り返しによりかなり衰弱し、寝たきり状態で経口摂取量も少なくなっており、点滴や経管栄養を行わなければそれほど長くはないと判断できる状況であった。

    これ以上の入院はせず、自宅で最期を迎えられるようにしたい、胃瘻を含めた侵襲的な治療は希望しないが、点滴だけは行って欲しい、というのが長男夫婦の希望であった。1カ月後の8月4日に100歳の誕生日を迎えさせてあげたいというのである。

    高齢者の終末期に関わる際、点滴を希望されることがあるが、何もせずに見ているより点滴くらいはしたほうが良いのではないかという、家族の気持ちによることが多いように思う。その際に、点滴をすると少しは寿命が延びるかもしれないが、浮腫が出たり分泌物が増えて苦しくなることがあることや、少しずつでも食べたい物を食べて自然な最期を迎えるほうが幸せかもしれないといった内容の説明をすると、何割かの家族は最終的に点滴しないことを選択される。方針を決める際には本人や家族の気持ちを最優先に考えるべきだが、そこには自身の医師としての価値観が入ってしまう。

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