株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

NOACのバイオモニター

No.4746 (2015年04月11日発行) P.58

井上 博 (富山大学理事/副学長)

登録日: 2015-04-11

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

新規抗凝固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)のバイオモニターについてご教示下さい。NOACは,その血中濃度と薬効である血液凝固能との相関性に乏しく,適切なバイオモニターがないと聞きます。ダビガトランのみ,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated par-tial thromboplastin time:APTT)がリスク指標として有用とされています。
たとえば,降圧薬を処方して評価する際は,血中濃度などではなく,降圧の程度で薬効を評価します。これと同様にNOACも,プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)またはAPTTのような血液凝固能で評価することはできるのでしょうか。血液凝固能とイベント抑制や出血リスクは相関しないのでしょうか。 (千葉県 K)

【A】

NOAC開発の重要なコンセプトは,固定用量,モニター不要ということであり,固定用量を用いてワルファリンを対照としたグローバル試験により有効性・安全性が検証されました。NOACは固定用量を使用するのが基本ですが,腎機能低下者などに対しては個々の薬剤で推奨されている減量基準にしたがって減量します。
出血の合併が少ないNOACとはいえ,時に重大な出血を合併するため,その予知に有効な指標があれば抗凝固療法を安全に行うことができます。また,(1)著しく高い血中濃度の可能性(低体重,高齢,腎機能障害など),(2)出血時や観血的処置前,(3)服薬中の血栓塞栓症発生,においてはNOACの抗凝固効果推定が診療上参考になります。
現在,日常診療でNOACの血中濃度を推定できるマーカーとしてAPTTとPTがありますが,これらは抗凝固強度の評価〔たとえばワルファリンにおけるPTの国際標準比(international normalized ratio:INR)〕ではないことに注意したいところです(文献1)。
APTTは,ダビガトランの血中濃度推定に有用で,トラフ値(次回服用直前の採血)が80秒以上の例では出血合併症が増加します。しかし,APTTが正常範囲であっても血中濃度が治療域より低いとは言えません(治療域内のこともあります)。
PT(INRではなくPT値そのもの)はリバーロキサバンの血中濃度推定に有用で,ピーク値(服用3時間後)が20秒以上の例では出血合併症が増加します(文献2)。PTが正常範囲内の場合の評価は,ダビガトランにおけるAPTTと同様です。
NOAC投与中に出血が起きた場合,APTTやPTが正常範囲ならNOACが原因とは言いがたいところです。ただし,リバーロキサバンと異なりアピキサバンの血中濃度推定に有用なマーカーはなく,エドキサバンについて十分な情報はいまだありません。使用する試薬によりAPTTやPTの測定値が異なることにも注意が必要です。
以上のように,APTTやPTを用いて投与量の調節や服薬アドヒアランスの評価を行うことは適切ではなく,現時点ではAPTTやPTによる投与量調節が効果を改善(出血をきたさず血栓塞栓症を予防)するというエビデンスはありません。日常診療では,血中濃度が過度に上昇する可能性のある場合(低体重,高齢,腎機能障害など)に,APTTやPTを念のために測定して,過度の血中濃度上昇のないことを確認するとよいでしょう(採血時間は上記を参照)。

【文献】


1) Cuker A, et al:J Am Coll Cardiol. 2014;64(11): 1128-39.
2) Nakao Y, et al:J Cardiol. 2014. [Epub ahead of print]

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top