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カテーテルアブレーションの患者別使いわけ

No.4708 (2014年07月19日発行) P.64

山根禎一 (東京慈恵会医科大学循環器内科教授)

登録日: 2014-07-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

欧米やわが国でリズムコントロールとレートコントロールの生命予後比較試験が実施された。この結果をふまえて,除細動の意味と,患者別使いわけについて。 (愛知県 N)

【A】

(1)リズム/レートコントロールの違い
リズムコントロールとは,抗不整脈薬を用いて心房細動の出現を抑制し,洞調律を維持する治療法である。一方,レートコントロールとは,心房細動自体はそのままで,心室の拍動数を適度に抑えてコントロールする治療法である。
両者のうち,一体どちらの治療法が望ましいのか,ということは長年未解決の問題であった。20世紀の終わりから21世紀の初めにかけて,両者の予後を調査する大規模試験が欧米およびわが国で次々に施行され(文献1~3),そのほとんどで,2つの治療の予後はほぼ変わらないという結果が得られた。この結果から一時,「心房細動は治療方針にかかわらず予後に差がない」つまりは「治療方針はどちらでもよい」という認識が広まった。しかしこれは現在,誤った認識とされている。これらの大規模試験で比較している2つの治療法は,どちらもコントロールという言葉がつけられているように,心房細動を治すわけではなく,心房細動を制御する治療法である。つまり薬物治療を続けて,心房細動とずっと付き合っていくということを前提とした治療法の中で予後を比較した場合の結果なのである(この時期,心房細動を治す方法はなかった)。
(2)カテーテルアブレーションの登場と役割
それでは心房細動を根治できれば上記の結果は変わるのであろうか。21世紀の幕開けとともに心房細動はカテーテルアブレーション治療の対象疾患となった。そして,カテーテルアブレーションと薬物治療を比較した洞調律維持効果に関する論文が多数発表された。代表的な研究としてA4-study(文献4)を紹介する。多施設間の無作為比較試験として施行されたこの研究では,112名の発作性心房細動患者を抗不整脈薬群とカテーテルアブレーション群に割り振り,1年間の洞調律維持率を比較している。洞調律維持が可能であったのは抗不整脈薬群で23%,カテーテルアブレーション群で89%と有意差をもって後者で高率であり,さらに自覚症状改善,運動耐容能,QOLのすべてにおいてカテーテルアブレーション群がまさっていた。
最近では,心房細動を根治させることは患者の予後改善にもつながるという報告も出されている。カテーテルアブレーション治療を施行した心房細動患者の予後は,施行していない患者の予後と比べて有意に良好であり,もともと心房細動のない人と同様の3年生存率を呈した(文献5)。この報告ではさらに,生存率だけでなく脳梗塞および認知症の発生率が,アブレーションをすることによって有意に減少することが明らかとなっている。
それでは,すべての心房細動患者にカテーテルアブレーションを行うことが望ましいのかと言えば,そういうわけではない。カテーテルアブレーション治療が適応となる人とそうではない人がいる。一般的には,就業年齢(約70歳未満)で症状を有していて,発作性心房細動(進行が軽度で治りやすい)の患者が良い適応とされている。逆に,高齢者(75歳以上)で無症状であって,既に慢性に進行した患者(治りにくい)では,通常はカテーテル手術の適応はない。
心房細動をカテーテルアブレーションによって治すことは,究極のリズムコントロールであり,根治できれば生命予後の改善につながる可能性が高い。しかし,適応患者や治せる時期は限られている。カテーテルアブレーションが適応となる患者では,早めに根治治療を施行することが望ましいが,既に慢性となった高齢者などでは,あえて危険を冒して手術をする必要はなく,薬物で保存的に治療するほうが得策と言える。それぞれの患者に適した治療方針の選択が最も重要である。

【文献】


1) Wyse DG, et al:N Engl J Med. 2002;347(23): 1825-33.
2) Van Gelder IC, et al:N Engl J Med. 2002;347 (23):1834-40.
3) Ogawa S, et al:Circ J. 2009;73(2):242-8.
4) Jais P, et al:Circulation. 2008;118(24):2498-505.
5) Bunch TJ, et al:J Cardiovasc Electrophysiol. 2011;22(8):839-45.

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