株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

非弁膜症性心房細動における脳梗塞のリスク評価法での「女性」という項目

No.4782 (2015年12月19日発行) P.58

奥村 謙 (弘前大学大学院医学研究科 循環器腎臓内科学教授/ 弘前脳卒中・リハビリテーションセンター理事)

登録日: 2015-12-19

最終更新日: 2016-10-25

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

非弁膜症性心房細動(nonvalvular atrial fibrillation:NVAF)における脳梗塞のリスク評価法CHA2DS2-VAScでの「女性」という項目は,リスクとしてカウントすべきでしょうか。それともリスクではないのでしょうか。弘前大学・奥村 謙先生のご教示をお願いします。
【質問者】
矢坂正弘:国立病院機構九州医療センター 脳血管・神経内科科長

【A】

わが国では,「女性」はNVAFにおける脳梗塞発症のリスクとはなりません。
NVAFにおいて,「女性」が脳梗塞/全身塞栓症のリスクとなるかどうか,わが国だけでなく欧米でも議論のあるところです。
「女性」がリスクとして認識されはじめたのは1990年代の5つの臨床研究のメタ解析の頃からで,女性の脳梗塞発症の相対リスク比が1.2(95%CI:0.80~1.8)と,有意ではないものの男性より高いことが示されました(文献1)。その後,米国の代表的疫学研究のFramingham Heart Studyでは,NV
AF女性の脳梗塞発症リスクのハザード比は1.73(1.16~2.59)で(多変量解析),「女性」が有意なリスクであることが示されました(文献2)。さらに米国のATRIA研究(文献3)や欧州のEuro Heart Survey(文献4)でも女性のリスクは有意に高く,Euro Heart Surveyではオッズ比が2.53(1.08~5.28)と相当に高いことが示されました。これらを背景として,欧州心臓病学会(ESC)は「女性(sex category:Sc)」をリスク(1点)としたCHA2DS2-VAScスコアを提唱しました。
一方,違った解析結果も報告されています。デンマークの50~64歳のNVAF例(2895例)を平均5年間追跡した前向き研究Diet, Cancer and Health studyの結果では,女性の血栓塞栓症リスクのハザード比は0.77(0.55~1.13)で,むしろリスクは低いことが示されました(文献5)。興味深いのは隣国スウェーデンの10万802例を対象とした解析では,全体ではNVAF女性の脳梗塞発症リスクのハザード比が1.18(1.12~1.24)と有意に高かったことです(文献6)。ただし年齢別に見ると,65歳未満では1.10(0.86~1.41)と高くはなく,75歳以上でのみ1.23(1.17~1.30)と有意に高くなることが示されました。つまり若年女性はリスクとならず,75歳以上と高齢であればリスクとなるのかもしれません。
では,わが国ではどうでしょうか。私たちのワルファリン服用および非服用のNVAF例(7406例)を対象としたJ-RHYTHM Registryの解析結果では,2年間の血栓塞栓症発症率は男性が1.8%,女性が1.6%で,むしろ男性のほうがリスクが高いという結果でした〔男性のオッズ比は1.24(0.83~1.86)〕(文献7)。
最近,私たちはワルファリン非服用のNVAF例(997例)について検討を加えましたが,女性の血栓塞栓症発症のオッズ比は0.72(0.28~1.62)で,年齢別にみると75歳未満が0.45(0.07~1.64),75歳以上が0.78(0.24~2.26)で,女性は年齢に関係なくリスクとならないことが示されました(文献8)。J-RHYTHM Registryに登録されたワルファリン非服用NVAF例の平均年齢は67.8歳で,一方,リアルワールドのNVAF例はより高齢であって,必ずしも実態を反映していない可能性があります。そこで,J-RHYTHM Registry(1002例),Shinken Database(1099例,平均61.4歳),そして,より高齢者が登録されたFushimi AF Registry(1487例,平均73.2歳)のワルファリン非服用NVAF例を統合して解析すると(合計3588例),女性の脳梗塞発症リスクのハザード比は1.07(0.65~1.76)で有意なリスクではないことが示されました(文献9)。
以上の解析結果より,わが国では,「女性」はN
VAFにおける脳梗塞発症のリスクとはならないと言えます。ただ,高齢になればなるほど女性の割合は増加し,高年齢が最も重要なリスクであることを考慮すると,超高齢女性が有意なリスクとなる可能性は否定できません。しかしながら,CHA2 DS2 -VAScスコアではA2 で示されるように「75歳以上」が2点とハイリスクにカウントされており,あえて「女性」をリスクとしてカウントする必要はないと考えます。
ちなみに,カナダ心臓血管学会の最新ガイドライン(文献10)もわが国と同様に「女性」をリスクとしてカウントしていません。

【文献】


1) Arch Intern Med. 1994;154(13):1449-57.
2) Wang TJ, et al:JAMA. 2003;290(8):1049-56.
3) Fang MC, et al:Circulation. 2005;112(12):1687-91.
4) Lip GY, et al:Chest. 2010;137(2):263-72.
5) Overvad TF, et al:Thromb Haemost. 2014;112(4):789-95.
6) Friberg L, et al:BMJ. 2012;344:e3522.
7) Inoue H, et al:Am J Cardiol. 2014;113(6):957-62.
8) Tomita H, et al:Circ J. 2015;79(8):1719-26.
9) Suzuki S, et al:Circ J. 2015;79(2):432-8.
10) Verma A, et al:Can J Cardiol. 2014;30(10):1114-30.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top