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ベンゾジアゼピン系薬物における常用量依存の形成機序

No.4769 (2015年09月19日発行) P.63

澤山 透 (北里大学医学部精神科講師)

登録日: 2015-09-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

ベンゾジアゼピン系薬物は通常の臨床用量以下の使用でも,長期の服用により依存が形成され,中止によって離脱症状が現れるという常用量依存を起こすことが知られています。しかし,その依存形成について触れられる機会が少なく,アルコールや覚醒剤などの物質依存とも異なるように思われます。
常用量依存の依存形成はどのように理解すればよいのでしょうか。北里大学・澤山 透先生のご教示をお願いします。
【質問者】
山本賢司:東海大学医学部専門診療学系精神科学教授

【A】

依存性薬物はシナプス伝達に影響を与える特異的な標的,たとえばモノアミントランスポーター,オピオイド受容体,カンナビノイド受容体,セロトニン受容体,NMDA(N-methyl-D-aspartate)型グルタミン酸受容体,GABA(γ-aminobutyric acid)受容体,ニコチン性アセチルコリン受容体,アデノシン受容体などに作用します。
依存性薬物の各々の薬理学的作用点は異なりますが,これらの作用が次の標的分子へ作用し,最終的に報酬効果を発現させます。そして,すべての依存性薬物の報酬効果および依存形成は,中脳の腹側被蓋野から側坐核に投射されるドパミン作動性神経系の活性化と関連していることが知られています。依存性薬物によってドパミン作動性神経系が活性化すると,側坐核でのドパミン量が増加し,快感や高揚感がもたらされ,ドパミンは反復行動の強化と動機づけに重要な役割を果たすと考えられています。
近年,動物モデルを用いた薬理学的な研究から,脳内報酬系に対するベンゾジアゼピン系薬物の作用が明らかになってきました。それらの研究によると,ベンゾジアゼピン系薬物は,腹側被蓋野のドパミン作動性神経に抑制的に働いている介在神経(GABA作動性神経)のα1 -GABAA受容体に作用し,GABA作動性神経を脱抑制することによりドパミン作動性神経を活性化し(報酬効果),側坐核でのドパミン放出量を増加させることが示唆されました(文献1~3)。
また,ドパミンシグナルの異常興奮を受けた生体は,フィードバック反応としてドパミン受容体のダウンレギュレーションを介して神経細胞に対して保護的に働きます。ドパミン受容体数の減少した神経細胞は見かけ上,ドパミンシグナルが不足した状態となり,これは薬物に対する渇望に関連する状態と考えられ,これにより精神依存が形成されると考えられています(文献4)。
ベンゾジアゼピン系薬物における依存には,薬物の乱用により社会生活上の著しい機能障害をきたす典型的な薬物依存のほかに,臨床用量であっても長期使用により耐性の獲得,精神依存・身体依存を形成する常用量依存が存在することが確認されています。依存形成の最大の危険因子は長期使用です。ベンゾジアゼピン系薬物の適切な使用,特に長期に漫然と処方することについては注意が必要です。

【文献】


1) Rudolph U, et al:Nat Rev Drug Discov. 2011;10(9):685-97.
2) Tan KR, et al:Nature. 2010;463(7282):769-74.
3) 吉見 陽, 他:精神誌. 2012;114:SS146-53. [https://www.jspn.or.jp/huge/107_symposium.pdf]
4) 伊藤教道, 他:臨精薬理. 2013;16(6):833-9.

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