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日本人の心血管疾患予防のための食事

No.4768 (2015年09月12日発行) P.56

中村保幸 (龍谷大学農学部食品栄養学科教授)

登録日: 2015-09-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

欧米では食事と心血管イベントの関連が疫学的に報告され,心臓病を防ぐ食事として野菜,果物,全粒穀物,魚の摂取が推奨されています。また,トランス脂肪酸,リノール酸の過剰摂取が心血管病変を悪化させる懸念から,摂取制限が推奨されています。しかし,日本人と欧米人とでは,結果が異なる可能性があります。NIPPON DATAの解析などが進行中ですが,心血管疾患予防の観点から,日本人ではどのような食事内容がよいか,またどれくらいの摂取量が望まれるか,さらには心血管に悪い食事はどのようなものか,現代日本人における赤身肉摂取,飽和脂肪酸摂取はどのようにとらえるべきか,龍谷大学・中村保幸先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐藤幸人:兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科 部長

【A】

ほとんどすべての人々が一生涯食事を摂り続けていますので,食事が心血管疾患に与える影響は重大と考えます。心血管疾患に対する栄養疫学研究は日本においても増えつつあります。NIPPON DATAやJPHC研究などは積極的に野菜,果物,魚を摂取することが心血管疾患予防に有益であり,食塩や飽和脂肪酸を多く摂取することは心血管疾患のリスクを増加させることを示しています。これらの結果は,欧米の研究と質的・量的な違いはないと考えます。
欧米の研究と異なる結果が得られている食事因子として,牛肉摂取と糖質制限食を挙げることができます。多くの欧米の研究結果は,全肉および赤身肉摂取は心血管疾患を含めた数種の死亡リスクを増加させることを報告しています。これに対して,広島・長崎コホート研究は動物性蛋白摂取が脳梗塞・脳卒中リスクと負の関係があること,NIPPON DATA80は肉類摂取が多いほど要介護発生が減少することを示しました。また,最近の日本を含めたアジアのコホート研究を総合したメタ解析研究では,教育歴などを含めた交絡因子で調整した解析で,赤身肉摂取が男性において心血管疾患の予防になることを示しています。
欧米とアジアでの研究結果にこのような相違が出る原因として,両地域における赤身肉摂取量に大きな違いがあることが考えられます。赤身肉摂取は近年アジア地域で増加し,一方,欧米ではやや減少しているとはいえ,両地域間にまだ4倍以上の開きがあります。日本やアジアで赤身肉摂取量が多い人でも,欧米の基準ではまだまだ少ない部類に入ります。したがって,日本やアジアで赤身肉摂取量が欧米並みに増えたとしたら,赤身肉摂取が心血管疾患に悪影響を及ぼすことが十分考えられます。つまり,欧米とアジアでの研究結果の相違は質的な相違ではなく,摂取量の大きな違いによる量的相違に起因すると考えます。
また,欧米人対象のメタ解析結果が糖質制限食は総死亡を増加させることを示しましたが,私たちはNIPPON DATA80で糖質摂取が総熱量比40~50%程度の糖質制限食は総死亡,心血管死亡を減少させることを最近報告しました。NIPPON
DATA80では,糖質摂取が総熱量比20%程度となるような極端な糖質制限を実施している参加者はほとんどいませんでした。ここでも質的ではなく,糖質制限の量的な相違が異なった方向の結果をもたらしたものと想定します。

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