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大動脈弁置換術後の歯科インプラント手術の感染性心内膜炎(IE)リスクと抗菌薬投与について

No.5260 (2025年02月15日発行) P.54

岸本裕充 (兵庫医科大学病院歯科口腔外科主任教授)

登録日: 2025-02-17

最終更新日: 2025-02-07

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大動脈弁置換術後などでも歯科でのインプラント手術は可能でしょうか。その場合,感染性心内膜炎(infectious endocarditis:IE)のリスクはどの程度でしょうか。
併せて,インプラント手術を行う際の抗菌薬投与などの注意点についてもご教示下さい。(大阪府 T)


【回答】

【抜歯に準じた抗菌薬投与下で手術をすればIEのリスクは高くはない】

大動脈弁置換術などの手術を受けた患者では,観血的歯科治療(抜歯など)時に生じる一過性の菌血症によって,IEを発症するリスクがあるとされています。

わが国の「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)」(JCS 2017)1)では,IEを予防するために歯科治療前に抗菌薬を予防投与することが推奨されていますが,一般人口におけるIEの発症率は3~7/10万人・年と稀少であり,予防投与の有用性を証明するのは難しく,欧米のガイドラインでの推奨は消極的,限定的です。

JCS 2017では,「予防的抗菌薬投与を行うことを強く推奨する」状況のひとつとして,「出血を伴い菌血症を誘発するすべての侵襲的な歯科処置(抜歯などの口腔外科手術・歯周外科手術・インプラント手術,スケーリング,感染根管処置など)」を例示しています。ちなみに,「予防的抗菌薬投与を推奨しない」例として,「歯科口腔外科領域:非感染部位からの局所浸潤麻酔,歯科矯正処置,抜髄処置」も挙げられています。

以下は筆者の私見ですが,抜歯や歯周外科手術に比較してインプラント手術の術野は感染巣でないため血中に流入する菌量も少なく,その分IE発症のリスクも低いと考えられます。ただし,大動脈弁置換術後では,ワルファリンなどによる抗血栓療法を受けている患者が多く,原則として抗血栓療法を継続下での施術が推奨されています。下顎孔伝達麻酔を併用しにくいなど,出血関連のリスクがあることを念頭に置くべきでしょう。

JCS 2017の推奨は,アモキシシリン2gの術前1時間以内の経口単回投与です。何らかの理由でアモキシシリン2g投与を減量する場合は,弁膜に付着した細菌の増殖を抑制するという薬理学的な根拠から,初回投与の5~6時間後にアモキシシリン500mgの追加投与を考慮する,とされています。また,βラクタム系薬アレルギーの場合にはクリンダマイシン,クラリスロマイシン,アジスロマイシンが推奨されています。

なお,JCS 2017では言及されていませんが,術前に「単回」が予防投与では重要な原則とされています。たとえば手術の3日前から抗菌薬を投与すると,耐性菌が選択された危険な状況で手術をすることになる可能性があります。

欧米のガイドラインでは抗菌薬の予防投与に消極的と上記しましたが,これは歯科治療後のIEの発症率はきわめて低いことと,根尖病変や歯周病などがあると「咀嚼や歯磨きなどの日常行為で菌血症が発症」していることが根拠となっています。インプラントの埋入手術時にはIEを生じなくても,インプラントの管理が悪くインプラント周囲炎を生じると,そこから菌血症が持続しIEを発症,というような可能性もあることは患者に説明しておくべきでしょう。

【文献】

1)日本循環器学会, 他:感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf

【回答者】

岸本裕充 兵庫医科大学病院歯科口腔外科主任教授

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