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会話を自動的にカルテ化するクラウドAIツールの活用で患者と向き合う時間を確保[クリニックアップグレード計画 〈システム編〉(33)]

No.5136 (2022年10月01日発行) P.14

登録日: 2022-09-28

最終更新日: 2022-10-07

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厚労省の医療施設動態調査によると、医師は医療文書の作成や診療録記載などの入力業務に毎日2時間以上かけている。電子カルテの普及に伴い、医師がPC画面に顔を向けたまま診療を行うことが増え、患者の不安や不満につながっているともいわれる。連載第33回は、医師・患者間のコミュニケーション上の課題解決やスタッフの負担軽減のために、音声を自動でカルテ化できるAIツールを活用するクリニックの事例を紹介する。

福岡県遠賀郡にある楠本内科医院の楠本拓生院長は、久留米大医学部卒業後、同大腎臓内科医局長などを務め、日本腎臓学会・日本透析学会の専門医・指導医を取得した。大学病院退職後、父が院長を務める同院の副院長に就任すると専門の腎臓内科、腹膜透析外来を開設。2017年に3代目院長を就任した。在宅医療にも積極的に取り組み、地域の「かかりつけ医」として質の高い内科診療を、常勤医師3人体制で提供している。

楠本さんは同院のコンセプトに「若い人から高齢者まで通いやすいクリニック」を掲げる。予約外でも時間を調整して対応はするが、原則完全予約制とし、自動精算機やPOSレジ、クレジット決済、Web問診、電話の自動応答、オンライン診療など、待ち時間の削減や感染予防につながるさまざまなツールを導入。患者の利便性を高め、満足度向上に取り組んでいる。

医療ICTの導入に積極的な楠本さんが、日常診療において特に有用性を実感しているのが、2022年6月に導入した、患者との会話を自動的にカルテ化するクラウドAIツールだ。

精度の高い音声解析能力は「凄い」の一言

同院が導入したのは、医療スタートアップのkanata株式会社が開発した「kanaVo(カナボウ)」(https://www.kanatato.co.jp/kanavo/)。音声認識とAIを活用した診療支援ツールで、電子カルテ入力業務を省力化できるメリットがある。楠本さんはkanaVoを導入したきっかけについてこう語る。

「以前、インターネットで当院に関する口コミに『院長がパソコンを見て診察するスタイルになかなか馴染めません』という書き込みがありました。しっかり患者さんに向き合うため、看護師や事務スタッフによるカルテの代行入力を開始したのですが、入力技術に個人差がある上に、忙しいときに担当するスタッフが代行入力にかかりっきりになってしまうという問題がありました。ほかの方法がないか探していたところ、kanaVoを見つけたのです。翻訳ソフトなど音声が文書になるツールはいくつかあったので試したのですが、どれもカルテとして使うには物足りませんでした。kanaVoの音声解析能力は『凄い』の一言でした」

手入力よりも充実した内容のカルテに

kanataは、医療秘書の知識に基づく構文解析技術が搭載されたクラウド電子カルテ「Voice-Karte」という製品を2019年にリリースしている。構文解析技術とは、文の内容を解析し、その構成要素がどのような関係にあるかを明らかにする処理。独自の構文解析技術と音声認識の組み合わせが、マスク越しの早口や周囲が騒がしい環境での会話も高精度で認識できるkanaVoの機能を実現した。他社の音声認識ツールのアップデートが年1回程度であるのに比べ、kanaVoは少なくとも週1回のペースでデータを整理。深層学習させることでAIが成長するため、医療向けに活用できる音声認識として評価を得ている。

kanaVoの機能の特徴は、①医師と患者の音声を分類、②画面(図1)上で気になる箇所を音声確認できる、③自動でカルテ形式に要約─の3点にある。

「会話を正確に記録するだけでなく、その会話の内容が自動的にカルテ形式に要約されます。誤変換も少ないので、電子カルテに貼り付ければ、微修正でカルテとして通用するレベルの情報になります。患者さんとのやり取りに集中できるため心に余裕が生まれ、手入力していたときよりも充実した内容のカルテができるようになりました。入力する必要がないので、訪問診療の現場でも有用です。入力の手間が8割くらい軽減されたイメージで、結果的に診察時間の短縮にもつながりました。一覧画面(図2)で患者さんとのやり取りをいつでも振り返ることができる機能もあり、スタッフとの情報共有もスムーズになります」(楠本さん)

多くのクリニックでメリットを感じられる

医療機関においてDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は喫緊の課題となっている。しかしクリニックにおける医療ICTの要となる電子カルテの普及率は40%程度にとどまる。普及が進まない大きな要因とされているのが、カルテ入力作業の負担だ。

「これからのクリニックには、高齢化が進む中、患者さんがスムーズな医療体験をできるようにDXを進めていく必要があると考えています。外来、訪問診療、オンライン診療など患者さんのニーズや状態に応じた診療体制を整え、それぞれに最適な医療を提供していくことが求められています。kanaVoの導入で電子カルテを入力する手間が大幅に削減され、患者さんと向き合い、より診療に専念できるようになりました。電子カルテを導入しているクリニックはもちろんのこと、入力作業がネックとなって電子カルテへの切り替えを躊躇しているクリニックも十分メリットを実感できるツールだと思います」(楠本さん)

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