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未来への負債 その3─夢の隠居生活[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(399)]

No.5110 (2022年04月02日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2022-03-30

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いよいよ4月からは、未来への負債を返してもらう総決算、隠居生活に入る。このときをどれだけ待ち焦がれていたかわからない。審査や評価の委員会など、いくつかの非常勤職はボケ防止のために残してあるが、定職にはつかない。暇でどうしようもないのではないかと心配してくれる友人が多いが、絶対にそんなことはありえない。

定年になったら始めようと思っていることがある。それは農作業だ。家の裏に50坪ほどの土地がある。バブルの時に地上げにあいかけて、安値だったとはいえやむなく買った土地なのだが、以来20年間ほど母がそこで畑をしていた。高齢で無理になってきたし、それを引き継ぐような形である。

もう研究には未練もなにもない。せっかくの人生、他のこともやってみたいではないか。『庭仕事の真髄 老い・病・トラウマ・孤独を癒やす庭』(築地書館)には、いかに植物栽培が人間に癒やしをもたらすかが詳しく書かれている。この本を読んで、農作業にいそしむのが一段と楽しみになっている。

もっと歳をとってからでもいいのではないかと言われることもあるのだが、それはあかんやろ。農作物の多くは1年に1回しか収穫の機会がない。最初からうまくいくことなどありえないだろう。そうなると、試行錯誤で、まともにできるようになるには数年から10年はかかるのではないか。65歳からでも遅すぎるくらいなのである。

だから、日常生活の基本は晴耕雨読になる予定だ。幸いに、書籍執筆のオファーをたくさんいただいていて、へいへいと適当に返事していたら、10冊以上にもなっている。死ぬまでに書き切れるかが心配なほどだ。

義太夫にももっと精を出したいし、できたら歌人をめざして、どこかの結社に入って短歌の勉強も本格的に始めたい。死ぬまでに読んでおきたい古典も山ほど残っている。

さらに、他にもやりたいことがある。僻地を中心に、世界中で行きたい場所をリストアップしているのだが、それが30カ所以上もある。年に6カ所行けたとしても5年がかりだ。それに、カイラス巡礼みたいに歳をとったら行けそうにないところもある。

こんなことを考えていると、暇を持て余すどころか、これまでよりむしろ忙しくなってしまいそうな気がしている。さて、未来への負債のお返しにはどんな生活が待っているのだろう。本当にわくわくしている。

なかののつぶやき
「新型コロナのせいで、しばらくの間、まだ外国旅行は難しいでしょう。なので今年は、これまでに45座を登頂している日本百名山の残りの山に集中するつもりです。悪天候での登山は嫌いなので、絶対好天の予想を見てから出かけるつもりです。こういうことも隠居の贅沢ですよね。『阪大名誉教授○○岳で遭難』とかいう記事が出ないように細心の注意を払って挑戦していくつもりでございます」

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