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冠動脈疾患の治療─すべてPCIでいいのか?[内科懇話会]

No.5108 (2022年03月19日発行) P.32

司会: 山科 章 (東京医科大学医学教育推進センター特任教授)

演者: 小林欣夫 (千葉大学大学院医学研究院循環器内科学教授)

登録日: 2022-03-21

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  • 【司会】 山科 章(東京医科大学医学教育推進センター特任教授)
    【演者】 小林欣夫(千葉大学大学院医学研究院循環器内科学教授)

    試験結果から言えば,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも冠動脈バイパス手術(CABG)のほうが優れており,ガイドラインでの推奨レベルも高い。それでもPCIを選択してよい理由はあるが,独善的にPCIを押し付けるのではなく,患者・家族にエビデンスと選択肢を提示し,治療法を選んでもらうことが重要である。

    PCIと薬物療法のいずれを選択するかのポイントは心筋虚血領域の広がりである。

    薬物療法で効果が見込める患者もいる。盲目的にPCIを選択してはいけない。

    待機的PCIを減らし,PCIの適正化を図ることが求められている。

    ◉治療の歴史

    冠動脈の狭窄部位にデバイスを送り込み,血管内腔を拡張する経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)は,1977年にドイツ人医師Gruentzigが手術を成功させて以来,現在に至るまで目覚ましい進化を遂げました。PCIの進化の歴史は,再狭窄との戦いの歴史です。

    たとえば,バルーン血管形成術の問題点であった急性冠閉塞を解決するためにステントを開発すれば,ステントの表面に血栓が付着して起こる亜急性冠動脈閉塞の問題が発生し,それを解決するために抗血小板薬2剤併用療法を編み出すといった具合に,難題をクリアするために新たなデバイスや治療法が生み出されてきました。

    再狭窄は1990年代にベアメタルステントが登場してもなお約30%の頻度で起きていましたが,薬剤溶出性ステントによってついに5%程度まで低下させることに成功しました。遅発性・超遅発性ステント血栓性閉塞こそ新たに発生しましたが,これも薬剤溶出性ステントを進化(第二世代への進化)させることによってクリアし,現在のように安全に,合併症も再狭窄もなくPCIを行えるようになりました。

    ◉PCI vs. 冠動脈バイパス手術(CABG)

    (1)どの試験結果もCABGに軍配

    日本では,昔から冠動脈バイパス手術(coronary artery bypass grafting:CABG)に比べPCIが多く行われてきました。では,PCIのほうが優れているかというと,そうとは言えません。エビデンスから言えば,実は1996年に報告されたBARI試験以降,PCIはCABGに連戦連敗です(表1)1)~6)

        
    約20年にもわたる数々の比較試験の結果をふまえ,2019年3月には日本循環器学会によって「安定冠動脈疾患の再血行再建ガイドライン」が改訂されています。PCIで推奨クラスⅠとされたのは2項目のみ〔「1枝病変かつ左前下行枝(LAD)近位部病変なし」「糖尿病を合併しない2枝病変/3枝病変かつSYNTAXスコア≦22」〕であるのに対し,CABGはほぼすべての項目で推奨クラスⅠとされました〔「1枝病変かつ左前下行枝(LAD)近位部病変なし」の1項目のみ推奨クラスⅡb〕。つまり,ガイドラインにも「CABGのほうが良い」ことが明記されているのです。

    (2)それでもPCIを選んでよい理由

    上記の結果をふまえると,我々インターベンショナリストが行っていることは,evidence based medicine(EBM)の精神に反しているように思えてきます。ただ,個人的な意見を言えば,それでも「PCIで手術をしてよい」と思うのです。
    図1a6)は左主幹部を対象としたエベロリムス溶出性ステントによるPCIとCABGを比較したEXCEL試験(2016年),図1b7)は同じくEXCEL試験に参加したハイリスクの糖尿病患者を対象としたサブ解析(2019年)の結果です。


    図1aを見ると,PCIは再血行再建でCABGに劣ることがわかります。つまり,PCIのほうがもう一度手術を施行しなくてはいけない可能性が高いということです。図1bを見てもやはり死亡,再血行再建においてCABGのほうが良い結果が出ています。ただ,急性期に当たる術後30日までのイベント発生率は,CABGの10.2%に対し5.3%とPCIに有利な結果が出ています。ここが私はポイントだと思うのです。

    たとえば,自分や家族が2枝・3枝病変であったときに,これらのデータを見せられ「死亡率はCABGのほうが約5%低いです。また,PCIはもう一度手術しなくてはいけない可能性があります」と言われたときに,PCIとCABGのどちらを希望するでしょうか。経験上,多くの患者はこの説明を受けてもなおPCIを選びます。

    「糖尿病でない場合,差が出るのは再血行再建だけ」であり「再手術が必要になった場合,PCIは同等のリスクで遂行できます」。私もそうですが,まずPCIで治療を受けて,それでも問題が発生した場合にCABGを検討すればよいと考える人のほうが多いのです。

    (3)「PCIでやれるからやる」は大間違い

    上記のようにPCIを選ぶ根拠がしっかりとあればよいのですが,若い医師や学生に「なぜPCIでやるのか」と尋ねると「PCIでやれるから」という答えが返ってくることがあります。これは明らかに問題です。

    忘れてはいけないのは,医師自身が十分にエビデンスを理解した上で患者や家族に選択肢を示し,選んでもらうことが大事だということです。EBMとは,独善的にエビデンスを押し付けることではないのです。先ほどの話も,PCIを選ぶべきだということが言いたかったわけではありません。結果として患者や家族がPCIを選ぶことが多いという事実とその根拠を示しただけで,医師の判断は患者の選択とは別問題なのです。

    治療法の選択にあたっては,特に高齢者ではCA BG術後のQOLの低下も重要な要素です。データに現れにくい部分であるため,医師がそのリスクについても説明し,患者や家族とよく相談した上で決めなければいけません。

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