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落ち方から分かること[先生、ご存知ですか(49)]

No.5105 (2022年02月26日発行) P.68

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2022-02-27

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墜落・転落

令和2年度において労働災害死亡者数は過去最低の802人でしたが、最も多い事故は墜落・転落(23.8%)でした。死傷者全体でみても、墜落・転落は転倒についで多く、約2万1000人です。また、高齢化に伴って転倒や転落による死者が増加しており、人口動態統計によると、65歳以上の高齢者の転倒・転落・墜落による死亡者数は交通事故の死亡者数の約4倍(8851人)でした。そのほか、墜落や転落は自殺の原因となっていることが多く、これらの予防を考える上では、十分に背景を調べる必要があります。

さて、不慮の事故死の調査を行っていると、2m程度の高さからの転落で死亡する人もいれば、それ以上の高さからの墜落でも生命に別状がない方もいます。落ち方が関係しているだろうと思い、調べてみました。

墜落・転落患者の検討

郊外の救急病院において、2m以上の高さから転落して搬送された患者さんを対象に、背景を調べてみました。既往歴や服薬内容、転落した高さ、負った損傷や重症度、入院時に計算した予測生存率、転落の原因などです。

まず、損傷重症度に影響を及ぼす因子を調べたところ、転落の高さが高いことは勿論ですが、足から転落するときに比べて頭部や側面から転落することが挙げられました。頭から落ちると重症だろうということは予想がつきましたが、側面からの転落でも重症になることが分かりました。同様に、予測生存率に影響する因子を調べたところ、高さが高いこと、背面や側面から転落することが、悪化させる有意な因子でした。側面からの転落で重症の胸腹部損傷(肺挫傷、肝損傷、血管損傷など)を負っていました。側面からの転落は危ないことが分かりました。

自殺企図者の場合

次に、自殺企図で転落した人と不慮の事故によって転落した人に分けて、背景や重症度を比較してみました。

いずれも中央値3mの高さから転落していました。そして、損傷重症度や予測生存率は両群で有意差がありませんでした。しかし、自殺企図者では女性が57.7%と過半数を占め(不慮の事故では9%)、88.5%が何らかの精神神経用薬を内服していました(不慮の事故では5.9%)。不慮の事故では、夜間の発生が9.2%でしたが、自殺企図者では38.5%と有意に高いことも特徴的でした。

落ち方を比較すると、自殺企図者の84.7%は下肢から落下していましたが、不慮の事故では、背面からの落下が36.6%と最も多く、下肢からが26.7%、側面からが19.9%と続きました。自殺企図者では圧倒的に下肢から転落する人が多いことが分かりました。ほとんどが精神神経疾患に罹患していましたが、これは本当に死を求めているのではなく、何かの支援を求める行動であったと思います。

郊外でも身近に起こる

高い建物が決して多くない郊外でも、墜落や転落事故は起きています。落ち方を調べることで多くのことが分かりました。不慮の事故では、再発防止に向けた予防対策、自殺企図では精神科的管理が求められます。

発生直後に損傷部位から落ち方を考えることは、適切な搬送や初期治療においても重要です。墜落や転落の患者さんに遭遇した際には、落ち方に注目してください。

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