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カタカナ英語の氾濫と英語発音教育の重要性:一医師としての考察[エッセイ]

No.5074 (2021年07月24日発行) P.62

岩動孝一郎 (医療法人社団予防会)

登録日: 2021-07-25

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近年、日本の学生の英語力の低下が問題視されている。また英語教師の発音指導のあり方についても疑問視されることが多い。英語発音の学習は、将来英語を使う仕事に挑む者にとっては必須である。特に、将来国際的にも活躍の場を持つ可能性が大きい医学生の場合には在学6年間を通じてでも、英会話能力を徹底して鍛える機会を持つ必要があると痛感する。


現在、日本語にはカタカナ英語が蔓延し、英語を日本語読みする弊害がある。日本語の母音は原則ア、イ、ウ、エ、オの五段なのに対し、英語の短母音では発音記号でɑ,æ,ʌ,ɔ,ə,i,o,uなどがあり、その発音もアクセントの有無によって微妙に変わる。その結果、英語発音の正確な表現はカタカナ英語では不可能である。さらに英語には長母音、二重母音、三重母音などもあり、また一方、子音では、rとlの区別はできないし、the(ð)とthree(θ)の音も表現できない。さらに、英語には有声音と無声音がある。前者は咽喉を震わせて音を出す音声で、後者では咽喉は震わせず、息のみを出す音声である。

英語の母音はすべて有声音であるが、子音では有声音と無声音の両者がある。日本のカナ文字読みはすべて有声音である。英語で有声の子音としてb,d,ɡ,v,ð,zなどがあり、無声の子音にはp,t,k,f,s,θなどがある。日本語でカタカナ英語を読む場合、有声子音が単語の末尾にくるcab,sad,dog,withなどでは言うまでもなく、無声子音が末尾のgap,cat,kick,chiefなどの末尾音も有声音で発音される。たとえばgap(ɡǽp)の場合、英語ではアクセントがつくことのない無声子音の末尾pが日本語読みではギャップと読まれ、末尾太字のプにアクセントが置かれることもあるようだ。

次に、米国語に特徴的な発音ɚ(r)について少し述べる。

英国語ではartは(άːt),bird(b́əːd),park(pάːk),work(ẃəːk)などと発音されるが(カッコ内は発音記号)、米国語ではそれぞれ(άɚtまたはάrt),(b́ɚːdまたはb́ərd),(pάɚkまたはpάrk),(ẃɚːkまたはẃərk)などと発音の際rの音を交える特徴がある。このɚ(r)の音は口奥で舌と上口蓋間を狭めるが接触せずに、また、人によっては口蓋垂を震わせて音を出すが、英国語にはない音である。米国東部の名門大学Ivy Leaguerたちは米国風の発音pάɚkではなく、英国語風にpɑːkなどと発音しɚ(r)を省略すると言われる。英語発音の詳細については、竹林滋、他、編「研究社ルミナス英和辞典 第2版」巻末の発音解説などに詳しいが、実際にはnɑtive speɑkerの教師による直接lessonが最も効果的である。

英語発音の学習には生の英語に接する機会が必須で、特に日本語で育ち成人してから英語の発音を習得するためには格別の努力が必要となる。強調すべきこととして、英会話では単語の正確な発音、アクセントと文章の抑揚(イントネーション)の習得が最重要ということである。一方、地名など長い語には第一アクセント(´)のほか、第二アクセント(`)が付く語も多い。たとえば、Washingtonはẃɔːsìŋtənと発音するが日本語読みはワシントンである。いくら英語に堪能な日本人でも日本語で話す場合、ワシントンのワにアクセントをおいて発音する人はほとんどいないと思う。

また英語では、アクセントがない母音はあいまいな音になることが多く、場合によっては省かれ、ẃɔːsìŋtənの最後のəが省略されてẃɔːsìŋtnなどと発音されることがある。特に母音のəやiにはアクセントがないことが多く、あいまいな母音になる。たとえば沖縄Okinawaの発音記号は `ɔkinάwɑで、アクセントのないiの音があいまいになりオカナワと聞こえる。Missouri州(mìzúəri)の末尾のiもミズーラと聞こえてしまう。

カタカナ英語の場合、本来の英語とはまったく違うアクセントで読まれることがほとんどで、イコール、カレンダー、ホテル、ポケットなど、日本ではいずれも太字の部分にアクセントが置かれるが、実際の英語のアクセントは、íːkwəl、kǽləndər、houtél、ṕɑkətである。さらに、日本語読みで間違いやすい例を少し挙げれば、cat(kǽt)とcut(kʌ́´t)はキャットとカットでカタカナ読みでも一応は区別できるが、bad(bǽd)とbud(bʌ́´d)は同じバッドで区別できず、bat(bǽt)とbut(bʌ́´t)もバットで日本語読みは同じである。これらの場合、母音のæとʌはまったく異なる発音であることも軽視されがちである。


以上、英語発音の一面について簡単に述べたが、学校の授業や自習のほかにnative speakerとの会話練習、TV、ラジオ英会話講座その他により一通り英会話に通じたつもりでも、現実に米国での生活で口語体での英語を話す場面になると、これまでに習った英会話とは大分違うことに気づいてしまう。話し相手が上司、初対面の人、顧客などの場合と、学生や仲間同士での会話などではまったく話す言葉が違ってくる。後者では略語、俗語、卑語、禁句なども頻用される。ちなみに、映画やTVドラマなどでも俗語、卑語が多く使われているのに驚いてしまう。某元大統領でさえ、側近たちとの会話で4文字の禁句を使用したと言われるほどである。

最後に、J. D. Salingerの小説“The Catcher in the Rye”では、17歳の主人公Holdenがprep schoolを退校になり、NYの自宅に帰るまでの3日間を街で過ごす羽目になる。その間のいろいろな体験を教師、友人、女友達、先輩その他の人々との口語体での会話で綴っているが、その中に多くの略語、卑語、俗語の類が使われている。この小説は一部に問題とする向きはあるが文学として高い評価を受けており、読み進むにつれこれら俗語や若者言葉などの語彙に触れながら物語を味わうことができる。会話の中に頻繁に出てくるgonna(going to),willya(will you?),sort of,dough,supposed to,wuddaya(what do you?),how come, come on,quite a few,and allなどの多くは大人の会話でもよく使われる言葉であるが、日本ではあまり教えられていないと思われるが如何であろうか。また、lousyという語はもとより上品な言葉ではないが口語体でよく使われ、主人公の妹Phoebeが口にしたとき母親が聞きとがめて、そのような言葉を使ってはいけない、とたしなめる場面がある。

会話の実際は“習うよりは慣れろ”である。native speakerの言葉を注意深く聞き、accent,intonationなどを理解・習得するにつれて学習者は語学勉強の魅力に取りつかれ、上達も早まるのではないだろうか。

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