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大きいことは良いことか?─「メガ医療事業体」論の虚構 [深層を読む・真相を解く(38)]

No.4725 (2014年11月15日発行) P.16

二木 立 ( 日本福祉大学学長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-17

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  • 同床異夢のホールディングカンパニー制度

    安倍政権が本年6月に閣議決定した「日本再興戦略(改訂2014)」には、「医療・介護等を一体的に提供する非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称。以下、ホールディングカンパニーと略)の創設」が盛り込まれました。それ以降、医療関係者から、この制度にどう対応すべきかについて質問されることが多くなりました。それに対して、私は、大要以下のように答えています。

    〈ホールディングカンパニーは、2013年8月の「社会保障制度改革国民会議報告書」でも提起されています。ただし、報告書では、「地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、当事者間の競争よりも協調が必要であり、その際、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要である」とされ、そのために「非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、機能の分化・連携の促進に資する」制度改革の一例として、ホールディングカンパニーが示されています。

    それに対して、「日本再興戦略」のベースになった「産業競争力会議医療・介護等分科会中間整理」(2013年12月26日)のホールディングカンパニーは、「アメリカにおけるIHN(Integrated Healthcare Network)のような規模を持ち、医療イノベーションや医療の国際展開を担う施設や研究機関」という巨大事業体まで含んでいます。これは社会保障制度改革国民会議が想定しているものとはまったく異なり、両者は同床異夢です。ホールディングカンパニーの具体化は、厚生労働省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」で検討されていますが、そこでも議論は錯綜しています。同検討会は年末までに結論を出すことになっているので、医療機関はそれを待って対応を考えればよいでしょう〉

    10月10日の上記検討会で、厚生労働省は、「地域包括ケアシステムを実現するためのマネジメントの受け皿となる法人」の「選択肢」として「地域連携型医療法人」を提案しました。これは、国民会議報告書が提起したものの具体化と言えます。

    しかし、医療関係者等の中には、産業競争力会議の医療・介護等分科会で松山幸弘氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)が提唱している年商1兆円規模の「メガ医療事業体」の創設を政府の既定の方針と誤解し、「住民を囲い込み、グループ以外の医療機関等は淘汰される」「米国のような病院チェーンが日本に参入する地ならしになる」等の「地獄のシナリオ」を語る方が少なくありません。

    そこで、本稿では、日本では「メガ医療事業体」の創設はありえないことを示します。ホールディングカンパニー全般については、上記検討会の報告がまとまった段階で、改めて検討する予定です。

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