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COVID-19がもたらす混乱と分断[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.40

瓜田純久 (東邦大学医療センター大森病院病院長・総合診療・急病センター(内科)教授)

登録日: 2020-12-31

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新年、明けましておめでとうございます。激動の2020年、改めて歴史的な1年であったとしみじみ振り返っておられる先生も多いことと思います。

2019年12月31日に武漢で原因不明の肺炎が報告され、2020年1月16日に日本でも確認され、感染拡大が現実味を帯びてきました。診断に時間を要する感染症に対し、臨床現場は大きく混乱しました。感染流行SIRモデルによる基本再生産数R0は感染率/治癒率と総人口に比例することから、R0を1未満にするためにイタリアや中国では徹底した封じ込めが行われました。日本では感染ピークを下げて社会経済活動を維持するため、感染者と濃厚接触者だけを検査して隔離する最低限の対策が採用されました。人権に配慮した優しい対応と言えますが、自らが被害者となりうる恐れの情動を軸として集団をコントロールする恐怖の政治学とも言えます。安心安全を求めて法的規律に頼る人が増え、非常事態の恒常化が受け入れられ、自粛警察まで生み出してしまいました。

COVID-19感染は皆平等に影響するはずですが、近代社会においてはリスクの分配が顕著となる傾向があります。制圧したとされるペストやコレラは根絶したわけではなく、発展途上国の一部に留められているに過ぎず、リスクの不平等分配が現実であることがわかります。リスクの不平等分配は医療現場においても大きな問題でした。COVID-19疑い症例の救急受入れ拒否が問題となり、感染病棟の増設により就労現場においては極端なリスクの偏りが生じてしまいました。

姿の見えないウイルスは平安の都を横行する疫神を彷彿させる恐怖を生み出し、さらにリスク不均衡が医療者間の軋轢を生み、現場は大きく疲弊してしまいました。古代日本の疫因論は蘇我氏と物部氏の崇仏論争のように祭祀の色彩が濃かったことは頷けますが、平安京を徘徊した疫神はもはや存在しません。感染症という病因論を獲得した現在においても存在するのは、非常事態が常態化し、リスクの不均衡により摩擦が増幅され、分断された社会なのかもしれません。

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