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細胞から学ぶこと[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.32

大山 力 (弘前大学医学部附属病院病院長・泌尿器科学講座教授 )

登録日: 2020-12-30

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私の専門は泌尿器科で、腎移植、腹腔鏡手術、ロボット手術など腎尿路・男性生殖器系の外科治療を生業としている。泌尿器科医として1984年から36年のキャリアがあるが、医者になって数年経た頃から外科治療の限界が見えてきて、腫瘍生物学、糖鎖生物学の研究もするようになった。

ケーラーとミルスタインが免疫制御機構に関する理論の確立とモノクローナル抗体の作成法の開発によりノーベル生理学・医学賞を受賞したのが1984年で、当時、モノクローナル抗体を樹立することも私の研究テーマのひとつであった。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは浮遊系の細胞で丸い形をして、培養液を工夫しないと育てるのに大変なこともあった。ある時、feeder cellを敷いてからハイブリドーマを培養するといいよ、と教えてもらった。ハイブリドーマはfeeder cellに寄り添うように接着して、元気が良くなり、抗体もよくつくるようになった。細胞は何か支えになるものがあると育つし、元気に働くのだなぁ、と思った。細胞を眺めていると、その集合体である動植物の本質的姿が見えてくるときがある。feeder cellとハイブリドーマの関係のように、ヒトも支えがあると元気になる。

がん細胞の表面に発現しているシアリルルイスXという糖鎖が多いほど、転移しやすいという仮説を証明する研究をしたこともあった。確かにシアリルルイスXを発現しているメラノーマ細胞をマウスに尾静注するとマウスの肺に転移した。ところが、シアリルルイスXを非常に高度に発現させたメラノーマ細胞はNK細胞に集中攻撃されて転移できないことがわかった。目立ちすぎると良くないのだろうか。自分がもしメラノーマ細胞だったら、シアリルルイスXを程よく出しておかないと陣地を広げることができない。過ぎたるは及ばざるがごとし、出る杭は打たれる、ということか。メラノーマも生き残るのに大変な努力をしている。近年の免疫チェックポイントの概念も人間社会に置き換えると、面白いし理解しやすい。

生体の最小機能単位である細胞の社会が人間社会の縮図にも見えてくる。基礎研究は楽しく面白いことを若い世代に伝えたい。

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