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新型コロナ時代の公衆衛生学のすゝめ[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.19

田淵貴大 (大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長)

登録日: 2020-12-30

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2020年、新型コロナウイルス感染症問題が発生したことにより、今までになく、“公衆衛生”という分野が注目を集めた。新型コロナ問題が起きる何年も前から、日本は世界の中で最も人が死ににくい国のひとつである(平均寿命が長いというのはそういうことである)。なぜ、日本人は長寿なのか? 様々に研究されてきたが、はっきりとした理由が突き止められているわけではない。その理由について確実だと考えられるのは、様々な要因が関連しており、単一の要因ではないということである。新型コロナ問題で生活が一変しているが、人々にとって大切な何かが失われてしまわないことを願う。

1つの公衆衛生学的課題として新型コロナ問題のために健康格差が拡大すると懸念されている。従来から、社会経済的に不利な状況の者ほど医療へのアクセスが困難であるなど健康の社会格差が存在しているが、新型コロナ時代に健康格差はどうなったのか? 緊急事態宣言などの社会政策はどんな効果や影響があったのか? について実態を把握する必要がある。そこで、我々はJACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究プロジェクトを立ち上げ、日本全国の住民約3万人を対象に健康・医療・社会・経済など、生活全般に関するインターネット調査を実施した。データをみると、緊急事態宣言が出された期間に、日本全国に薬を受け取れなかった患者がおり、感染者がほぼいない地域でも10%弱の患者がいつもの薬を切らしていたとわかった。今後、健康格差や社会格差に関する分析を進めていく。全国の研究者のみなさん、一緒に分析しませんか?

就職氷河期を経験した人は、長期間にわたり就労・所得等社会経済的に不利な状況に置かれてきた。新型コロナ問題の社会や生活への影響が長期にわたるのは間違いないだろう。公衆衛生学の専門技術を駆使して、現状把握に努め、どのような変化が起きているのかデータを分析し、対策の効果を評価し、今後のより良い社会や生活のかたちを模索していく所存である。そうして、人々の健康と幸福に貢献したいと考えている。

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