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【識者の眼】「フィンランドの電子カルテとネウボラの情報管理に学ぶこと」石﨑優子

No.5005 (2020年03月28日発行) P.56

石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)

登録日: 2020-03-28

最終更新日: 2020-03-25

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政府が2016年に、「子育て世代包括支援センター」を2020年度末までに全国展開する構想を発表したことで、そのモデルとしてフィンランドの“ネウボラ”が注目されている。ネウボラ(neuvola)とは「アドバイスの場」という意味で、母親の妊娠期の相談から子どもの心身の成長・発達を、母と子のみならず家族全体を支えながら支援するシステムである。フィンランド国内では妊娠期から子どもの小学校入学まで、無料で同じ担当者が母と子のサポートを行う。また出産に際して国から支給される育児パッケージも有名であるが、さらに重要なものはネウボラに見る個人記録の管理の在り方であろう。

フィンランドでは、個人の電子カルテ(electronic health record:EHR)は生まれた時に付与される個人番号(日本のマイナンバーに相当)に紐付けされている。ネウボラの記録も同様に紐付けされている。フィンランド国民は自ら電子カルテにアクセスし、カルテを読むことができ、また公立、私立、医科、歯科、薬局等の医療機関の間でも情報共有が可能である(ただし医療機関に対して、どこまで内容を開示するのかは本人が制限をかけることが可能である)。

このシステムを用いて、ネウボラ健診による家族の遺伝的要因や両親の素因、子育て環境、発達の継時的変化をみることにより、子どもに発達障害がある場合の早期発見、早期介入が可能になる。また児童虐待に関しても過去の受診歴を知ることにより、虐待の早期発見の糸口になることもあるだろう。近年わが国で問題視されているように転居により被虐待児の情報伝達が途絶するようなこともない。そして処方箋情報の共有は薬物乱用、薬物依存の防止にも役立つであろう。

ネウボラに学ぶことは、ネウボラナースと育児パッケージだけではない。子どもが生まれる前からのネウボラやEHRの情報管理に学ぶことは多いと思われる。

石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[子育て支援][医療情報管理]

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