ヌーナン症候群(Noonan syndrome:NS)は特徴的顔貌,肺動脈弁狭窄・肥大型心筋症・心房中隔欠損等の心疾患,低身長,胸郭異常,精神運動発達遅滞などを伴う先天異常症候群で,多くは常染色体顕性遺伝形式(AD),一部で常染色体潜性遺伝形式をとる。原因遺伝子はPTPN11(40%),SOS1(11%),RAF1(5%),RIT1(5%),KRAS(~2.5%),BRAF(1.8%),NRAS(0.5%)等であり,いずれの遺伝子にも細胞内シグナル伝達経路であるRAS/MAPK経路を活性化する病的バリアントが同定される1)。臨床的にNSが疑われる患者の10~20%程度には既知遺伝子の病的バリアントが同定されない2)。神経線維腫症1型や,NSに臨床的に類似したコステロ症候群およびcardio-facio-cutaneous(CFC)症候群(心臓・顔・皮膚症候群)の原因遺伝子もRAS/MAPK経路を制御する分子をコードすることが知られている。RAS/MAPK経路の調節異常により引き起こされるこれらの疾患を総称してRASopathiesと呼ぶ。
NSや類縁疾患が疑われた場合,身体所見から臨床診断を絞っていくことと並行して,遺伝学的検査を検討する。NS,コステロ症候群,CFC症候群の遺伝学的検査は保険収載されている。これらで陰性の場合は,他疾患との鑑別の目的で染色体G分染法やマイクロアレイ染色体検査を考慮する。
van der Burgtらの診断基準を参考にして,AMED研究班によって診断基準が作成されている(「難病情報センター」ウェブサイトよりリンクあり)。特徴的あるいは示唆的な顔貌は必須であり,臨床的には心疾患,低身長,胸郭異常,家族歴,その他(精神運動発達遅滞,停留精巣,リンパ管異形成)の組み合わせにより診断される。
典型的な顔貌として,広く高い前額部,眼間開離,眼瞼下垂,内眼角贅皮と外側に向けてななめに下がった眼瞼裂,厚い耳輪,後方に傾いた低位耳介等が挙げられるが,dysmorphology(形態異常診断学)に習熟した専門医による判定が必要で,類似した顔貌を示す他の疾患と鑑別診断することが重要である。顔貌は年齢とともに変化するため2),成人以降に疑われた場合は乳幼児期からの写真(あれば)を確認させてもらうとよい。
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