株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

新年に建学の精神「自然・生命・人間」を振り返る[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.49

瓜田純久 (東邦大学総合診療・救急医学講座教授/東邦大学医療センター大森病院病院長)

登録日: 2020-01-04

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新年明けましておめでとうございます。

東邦大学は創立95年を迎え、記念すべき100周年まで、いよいよカウントダウンとなりました。炭山理事長が学粗である額田豊・晋両先生の建学の精神に込めた思いと発展に尽くされた足跡をたどり、我々の歩むべき道を明らかにするために、「額田豊・晋の生涯―東邦大学のルーツをたどる―」を出版されたのは2015年でした。本学教職員が改めて建学の精神「自然・生命・人間」を強く意識するようになったのは、その年であったことは間違いありません。それから5年が経とうとしておりますが、建学の精神に対する思いは教職員それぞれですが、100周年に向けて、今一度考えてみたいと思います。

自然科学の一翼を担う医学ですが、自然科学は人間が自然の外郭にあり、自然を対象として客観的に検討するという科学観でした。これは自然科学が主にキリスト教圏で発達したことによると思われ、その階層的自然観である「神-人-自然」が大きく影響していると考えられています。本学の理念では、「神」に代わり、「生命」が組み込まれています。

この生命は、生物学的な個々の生命としてだけではなく、生命を動的な大自然の一部として捉えおり、キリスト教の福音書に起源を持つ考えに近いとすぐに理解できますが、自然と人間の位置が逆転していることに驚きました。人間も自然の一部であり、自然との一体感を持って内から自然を認識する「自然科学」の新たな哲学に一致するものでした。生命は宇宙の進化の過程で創発されたものであり、自然の一部であることは明らかですが、科学にのめり込むとつい忘れがちになってしまいます。

135億年前のビッグバン以降、宇宙は膨張を続け、絶えず発展してきました。構成要素の種類と数が増加し、要素間相互作用が多様になり、臨界値を超えて周囲の条件が整うと、対称性が破れて相互作用が分岐します。さらに、物質の多様化とともに触媒作用を有する物質が出現すると、反応方向が一定となり、階層が生まれます。階層間の相互作用も加わって自己組織化が進み、エネルギーを蓄積し、エントロピーを放出する機構が備わると、生命が誕生する可能性が高まります。そして、人間の誕生へと時間は動き始めます。「自然-生命-人間」と並ばなくてはならないことが理解できます。自然をコントロールして人類のために利用するという自然観ではなく、自然のよりよい自己実現のために科学に取り組む自然科学系総合大学をめざす、という強いメッセージを感じます。

自然科学は医療機関が集団としての個性を確立し、発展・進化するための条件を教えてくれます。構成要素とその相互作用数が適度に多く、反応の方向性を決定するために自己触媒も必要です。質の高いエネルギーを蓄積し、コントロールが難しいエネルギーはエントロピーとして放出しなければなりません。自ら変わることができる系は非平衡散逸開放系であり、常に活発な情報交換が必要です。

「自然・生命・人間」各要素間・階層間での活発な情報のやり取りを継続的に提供できる病院として、変化する社会のニーズに動的に対応できる病院をめざし、大森病院は発展進化していきたいと考えています。

本年も、何卒よろしくお願い申し上げます。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top