株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

一期一会、バチカン宮殿にて教皇に謁見[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.9

杉山温人 (国立国際医療研究センター病院病院長)

登録日: 2020-01-01

最終更新日: 2019-12-26

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

1988年9月のことである。米国で開催された国際学会に参加し、その後、夏季休暇を兼ねてイタリアに飛んだ。かねてからイタリアに行きたいと言っていた妻のたっての希望であった。1歳の長男を郷里の両親に預けて、気持ちは2度目の新婚旅行気分である。ローマからフィレンツェ、ベネチアを経てミラノから帰国するイタリアの鉄板コースを企画した。

さて、ローマの観光名所を回った後、サン・ピエトロ大聖堂に着いたときはお昼を過ぎていた。7年前に卒業旅行で訪れた際、大聖堂のクーポラ(ドーム)の展望台に登ったのだが、かなりきつかった。このため、どうしかようと思案しながら、妻と2人、ミケランジェロのピエタ像の前で佇んでいたのである。そこに日本語で話しかけてくる人がいた。神父の格好をしているが、ここはイタリアである。うかつには信用できない、と疑いの目で見つめたが、その人から思わぬ提案を受けた。これからポーランドの信者が教皇に謁見するが、その席に立ち会わないか、と言うのである。ちなみに、時の教皇はヨハネ・パウロ2世で、ポーランド出身であった。静岡からきた新婚さんと我々の4人で、謁見の場に参加することになった。

謁見に先立ち、一般の人が入れないバチカン内部に案内された。ラファエロの絵など多くの名画が飾られた部屋を案内されたが、カメラを持参していなかったため、同伴の新婚さんに写真を依頼した。その後、誰もいない長い階段を我々だけで登り、システィーナ礼拝堂にショートカットで入場した。周囲の人たちは特別扱いを受ける我々を怪訝そうな顔で見ていたが、それも当然である。クライマックスとして教皇の謁見の場に立ち会った。最後部で拝聴したが、教皇が退出される際にお手に触れることができた。まるで映画のような展開であった。

その後、静岡の新婚さんに写真を送ってくれるよう連絡を取ったが、なんと彼らは離婚しており、写真を入手することはかなわなかった。あれは本当にあったことなのだろうか、と疑念にかられることがあるが、手元に唯一残った記念のロザリオが本当だよ、と教えてくれる。素敵な一期一会であった。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top