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飼い犬レオの開胸僧帽弁オペ、そしてその後[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.86

鈴木好夫 (内科すずきクリニック院長)

登録日: 2020-01-06

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2018年秋、10歳の飼い犬レオ(キャバリア チャールス スパニエル)は元気に過ごしていたが、乾性の咳をするようになった。キャバリアは心臓に弱点があることは知っていた。レオをタクシーで20分の心臓病専門獣医のいる犬猫クリニックへ、医者である娘が連れて行った。

診断は僧帽弁閉鎖不全症、肥大した左心が気管を刺激、心エコーで裂けた僧帽弁と左房へ逆流する大量の血流あり。心臓外科獣医は、余命は3カ月。私は心臓オペにサインをした。レオ自身のインフォームドコンセントは取れない。余命3カ月に恐怖したが、7倍のスピードのドッグイヤーを考え、納得できた。心臓外科獣医ドクターI、麻酔科医、ポンプテクニシャン、ナースのチームにより12月7日にオペを行った。開心して僧帽弁修復、弁腱索再建、弁輪絞縮が行われた。若いチームは爽やかでオペは完璧、左側胸に18針の縫合あり。わが家も総力戦となった。10日後、元気なレオがわが家にいた。家族全員が有頂天であった。

冬を乗り越え、春が来ての健診も問題なく、レオは誰からも好かれ元気であった。8月になった時、レオの動きがゆっくりとなった。食べなくなった。近くのかかりつけ獣医が点滴をした。連絡を取りオペのI先生を受診する日の8月31日の早朝、レオはお気に入りの玄関の三和土の上で死んだ(POD277)。悲嘆である。妻は涙湖のキャパシティを超え、溢れ出る涙をおさえ続けた。火葬場の僧は読経の中に、「よくなつき共に楽しみ」という言葉を入れてくれた。享年11歳。

秋になり思う。あれは短命犬の寿命だったのだ。心臓のオペをして寿命が伸びることはなかったのだ。人の世の摂理を忘れ、犬の世の摂理を忘れ、扇の日招きに等しいオペを受けさせたのだろうか。娘は痛い思いをさせたのでは、と悩んだ。私は悲しいだけ。「虹の橋」の詩には慰められた。

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