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脳外科医になって40年─ただただ医学の進歩の驚き[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.64

三木 保 (東京医科大学病院病院長)

登録日: 2020-01-04

最終更新日: 2019-12-23

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SF映画のお好きな方でしたらきっとご存じだと思いますが、1966年に20世紀FOXで「ミクロの決死圏」という映画がありました。医師が宇宙船みたいな乗り物に乗り、その宇宙船を赤血球の10倍程度の大きさにミクロ化します。そして、その宇宙船を脳出血のある患者さんの肘静脈から注射器で送り込みます。それから血管を流れていき、心臓、肺臓を通り頸動脈に入り病巣に辿り着きます。そして、潜水服を着て船外に出てレーザー銃で病巣(血腫)を破壊治療する。治療後は涙腺から涙に紛れて体外に脱出し、元の大きさに復帰する、というお話です。映画の邦名は「ミクロの決死圏」ですが、英文タイトルは“Fantastic Voyage”で、まさに我々の体の中に宇宙と同じような無限の広さと、神秘的な美しさが存在することを実感させてくれました。いつかは科学の進歩でこのような夢のような治療法が行われることを想像し、興奮したことを今でもよく覚えています。そして20年前に初めて神経内視鏡(この頃は膀胱鏡で代用していました)にて水頭症の患者さんの脳室の中をみたときの印象は、まさにこの「ミクロの決死圏」と同じ神秘的な世界の中にいる、という感激がありました。

ドラえもんではないので、物をミクロ化したり、タイムマシンにはまだまだ相当な時間がかかると思います。しかし、医師になって40年の短い間にも、日常臨床でも驚くほどの医学、科学の進歩の恩恵がありました。その代表例がCT、MRIでしょう。誰がみてもわかるような、生きたままで脳の水平断が得られるようになりました。その後、MRIの開発で脳あらゆる断面、さらには3D-imageによる立体構造までが手に取るように描出されるようになりました。

入局当初、複雑な解剖の脳室系の病変に対して、何とか診断を付けようと今では死語となってしまいましたが、気脳撮影が懐かしく思われます。今を思えば検査のため苦痛を与えた患者さんに本当に「ご免なさい」です。近未来にはどんな脳神経外科になるのでしょう。皆様と一緒にワクワクしたいと願っております。

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