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二兎を追うものは[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.52

佐々木 均 (長崎大学病院薬剤部部長・教授)

登録日: 2020-01-04

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中学・高校時代に、推理小説とSF小説にはまり、寝る間も惜しんで乱読した。コナン・ドイルやエラリー・クイーンの緻密な推理に感激し、アイザック・アシモフやエドガー・R・バローズの夢物語に胸を躍らせた。必然的に推理力で夢を追う研究者の道を選んだ。薬剤学・製剤学に進み、長崎大学・京都大学では頭脳明晰で温厚な先生方にご指導頂き、新しい概念であったドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発研究に没頭した。その後、薬学の教官になり多くのDDS開発に携わった。

常識的な結果が得られる研究デザインは、学生の卒業や修了には都合が良いが、面白みがない。常識外の結果が出て驚くときもあるが、99%は計画か学生の実験手技の失敗である。しかし、1%の常識外の真実が面白い。

25年前に基礎研究者から病院薬剤部の医療者へとポジションを変えた。医療の先進性・社会性に感動し、膨大な医学・社会学・心理学・医療制度・病院経営・薬剤部業務などの勉強に没頭した。医学生・看護学生の教育も面白かった。理想を追い求め、診療・業務や教育・研究の改善サイクルを積極的に回してきた。職員は各自の能力や専門性を毎年向上させ、一緒に教務改善や効率化を達成し、大学病院の経営や運営に貢献できた。先進的な地域ネットワークも広がった。

近年、治療の現場では抗体医薬品に加え、遺伝子治療、核酸医薬品、細胞治療など、新しい創薬モダリティが登場している。中でも核酸医薬品は高分子で易分解性のため、細胞内への標的化が困難であり、有用なDDS開発が必須である。オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターは、「イノベーションとは2つの異なるものや考えを結合させ、新たな価値を創出することである」と言っている。薬学研究者と医療者の経験がつながり、継続してきたDDS研究から1%の常識外の真実を見出した。現在、日本学術振興会や科学技術振興機構から助成を受け、新たな核酸医薬品産業への夢を追いかけている。若者よ、大志を抱け。新分野への挑戦を恐れず、二兎も三兎も得て欲しい。

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