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疑問を持ち続けること[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.46

青木拓也 (京都大学大学院医学研究科地域医療システム学講座)

登録日: 2020-01-03

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「私に特別な才能はない。ただ猛烈に好奇心が旺盛なだけだ」とアルベルト・アインシュタインはかつて友人に書き送ったという。同じようにレオナルド・ダ・ヴィンチも、身の回りのあらゆる事象に疑問を持ち、それが結果的に今日誰もが知る作品に結実した。私たちは誰しも、経験を重ねるほど日々の事象が当たり前になり、好奇心や疑問を持たなくなる傾向がある。もちろん、アインシュタインやダ・ヴィンチのレベルを求めるのは酷だが、疑問を持ち続けることは、医療者の生涯学習においても非常に大きな意味を持つと考える。

たとえば、私が診療を行っているプライマリ・ケアの現場にも、無数の疑問が転がっている。私が研修医を指導するときは、たとえ症例が変化のない慢性疾患患者への定期処方であっても、振り返りで「この患者さんを診て疑問に感じたことはあるか」といつも研修医に問うようにしている。疑問の内容を臨床医学に限定する必要はなく、時には医療政策や他の学問領域に及ぶこともある(これはプライマリ・ケアならではかもしれない)。目的は、研修医のうちから疑問を持つ力を養うことだが、疑問の内容で研修医の基礎知識のレベルを把握することも可能である。こうした問いを続けていると、疑問を多く持つ医師は成長のスピードが速いことを実感する。疑問を持つ力は、研究を行う上でも非常に重要である。

特に臨床研究では、医療現場で生じる疑問をもとにリサーチ・クエッションを立てるプロセスが不可欠である。もちろん方法論も大切だが、私は自身の研究実践や後進の指導を行う中で、疑問の質が、その研究の価値に最も大きな影響を及ぼすと確信している。そのため、リサーチ・クエッションを決定する上で壁に直面したときには、原点である研究者自身の疑問に立ち戻ることを勧めている。今後医療現場へのAI導入が進み、医療者の役割が再定義される中で、疑問を持つ力は益々重視されるのではないだろうか。傑人の傑人たる所以は、これからの時代も不変なのかもしれない。

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