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サバ・ラバ・ラクダ[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.21

鶴田良介 ( 山口大学大学院医学系研究科救急・総合診療医学分野教授/山口大学医学部附属病院副病院長)

登録日: 2020-01-02

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映画「ゆりかごを揺らす手」、「グーニーズ」、「ブラックホーク・ダウン」、「007カジノ・ロワイヤル」、「救命士」、「着信アリ」、「終の信託」に関連する疾患は何か? 3つ目あたりでわかった方は相当な映画通。気管支拡張薬、短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入器が映画のシーンで出てくる。4つ目も血の涙を流す悪党がSABAらしきものを人前で堂々と吸う。答えは気管支喘息。

筋注→静注→経口→吸入というのが喘息の治療の変遷で、私自身も受けてきた。記憶にあるのは、幼稚園時のアミノフィリンの静注からで、それ以前のステロイド筋注は母から聞かされた。園児の私がぬるま湯に両手掌をしばらく漬けられ、浮き出た血管にガラス筒の注射をされたのを憶えている。キサンチン系経口薬は自分でやめてしまい、家に溜まっていった。中学生になると胸ポケットにいつもSABAの吸入器が入っていた。大学生のとき、1日で1本を使い切っても体に変化が起こらないことを実感した。「今夜また発作が起こったらこの住所においで」と教えてくれたのが、休日夜間診療所の医師で、その先生の予言通り、彼のクリニックに卒業まで通院した。

卒業後、県内の病院に呼吸器内科医として勤務し、吸入ステロイドを1日32パフ吸うように上司に指導されたが、自分のことにそこまで真摯になれなかった。ステロイドの点滴静注を他人の手を煩わせずできるようになり、経口ステロイドのストックをキープすることで医師の業務を続けるうちに、もっと重症患者を診たいと思い、救急・集中治療に入り込んでいった。

そこで、10年以上が経過し、開業した以前の上司に喘息の治験を勧められ、プラセボかどうか疑わしいものを吸入して出会ったのが長時間作用性β2刺激薬(LABA)で、それ以来LABAとステロイドの両方(やがて合剤)を吸入している。いつしかSABAをポケットどころか海外出張にさえ忘れるようになり、替わりに私の胸ポケットにはスマートフォンが収まっている。

今後映画で喘息を表現する場合、ステロイドを吸入しているシーンに置き換わってくれることを切に願わずにいられない。

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