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“医師だけのクリニック”をレセコン一体型電子カルテのカスタマイズで実現[クリニックアップグレード計画 〈システム編〉(12)]

No.4989 (2019年12月07日発行) P.14

登録日: 2019-12-06

最終更新日: 2019-12-06

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“電子カルテ元年”から20年が経過し、新規開業のクリニックでは約8割が電子カルテを導入している。特にレセコン一体型の電子カルテは、受付から診療、会計、請求まで一連の作業を効率化でき、人手不足に悩む医療機関にとって生産性を向上させる有用なツールとなる。シリーズ第12回は、低コストかつ使い勝手に優れるレセコン一体型電子カルテで事務作業を省力化し、医師のみで診療を始めたクリニックの事例を紹介する。

  

城下町の風情が残る千葉県大多喜町の街道沿いに今年10月、個性的なクリニック「大多喜眼科」が開業した。同院は、院長の岩崎明美さんと副院長の眞鍋洋一さんの医師2人でクリニックの業務全般を行う。

同院は、事務長を兼任する眞鍋さんが温めてきたコンセプト“医師だけで運営するクリニック”を具現化したもの。眞鍋さんは聖路加国際病院などで眼科専門医として研鑽を積み、香川県高松市で眼科クリニックを開院した。年間1000件超の白内障手術を行い経営は順調だったが、「いずれクリニックを譲渡して新しいことをやりたい」と考え、2014年に香川大大学院でMBAを取得。18年に譲渡が成立したため、「所有地の活用で地域貢献をしたい」という知人から大多喜町の土地を借り、岩崎さんとチャレンジを始めた。

「理想は移動式クリニックだったのですが、法的に難しいためコンテナを活用することにしました。レセコン一体型の電子カルテを基幹システムとしてコンパクトなユニットを組み、院長の専門である流涙症の手術も可能な診察室ができました。インターネットにさえつながれば、コンテナのまま輸送してほかの場所ですぐに診療できる機能があります。コンテナハウスのクリニックは日本初だと思います」

医師目線のニーズで開発された電子カルテ

眞鍋さんが同院のオペレーションに「欠かせないシステム」と強調するのが、レセコン一体型電子カルテシステム「ダイナミクス」(http://www.superdyn.jp/dyna/index.html)。ダイナミクス(図1)は元エンジニアで内科医の吉原正彦氏が、「レセコンデータから紹介状を自動作成したい」「患者の薬歴経過を把握したい」といった医師目線のニーズを基に開発したソフトで、眞鍋さんは以前のクリニックでも愛用していた約20年来のユーザーだ。

ダイナミクスは、マイクロソフトOffice Access(アクセス)をベースに構築されているため一般のPCでの使用が可能で、①システム連携などカスタマイズがしやすい、②カルテ情報を自分で管理できる、③低コスト―という3つの大きな特徴がある。

図2は同院がカスタマイズしたダイナミクスの診察画面。ダイナミクスが公式に提供するカスタマイズソフト「タブダイナ」をインストールし、検査・処方・処置の情報がワンクリックで一括入力できる。プログラムがユーザーにオープンにされているため、外部システムとの連携もしやすい。院内検査取り込みソフトの「RS_Base」と連携し、検査や画像データなどを電子カルテにファイリングして一括管理している。

顔認証システムとの連携でスムーズに受付

同院のダイナミクスは顔認証システムとも連携。初診時に患者の写真を撮影してシステムに登録すると、次回から受付に患者が近づくとダイナミクスの受付画面にIDと名前が表示され、電子カルテが動きだす仕組みだ。診察券提示など受付の手間や時間を省略できるメリットがある。

「ダイナミクスは何も手を加えずデフォルトの状態で使っても十分機能的ですが、公式のカスタマイズソフトも数多く公開されているので、ITに詳しい先生はオリジナルの電子カルテを作ることができる。この自由度がダイナミクスの魅力です」(眞鍋さん)

カルテ情報を医師が自分で管理できる

カルテ情報の管理については、データはユーザーのものという考えから、ダイナミクスではすべての患者情報や診療データを取り出し加工することが可能だ。一般的に電子カルテは情報の閲覧はできるものの、取り出すことはできないケースが多い。ほかのシステムに切り替えた場合、閲覧すらできなくなる可能性がある。こうした互換性の低さが既存クリニックで電子カルテが普及しない要因の1つとなっている。

気になるコストは、初年度が年額35万2000円、次年度からは月額1万1000円。診療報酬改定ごとのバージョンアップを無料とするなど、クリニック向けのソフトだけに負担感の少ない料金設定だ。

またユーザ―で構成される「ダイナミクス研究会」では、メーリングリストや勉強会を通じ、導入事例の紹介や運用の工夫などについて活発な情報交換が行われている。研究会からの提案で追加された機能も多く、ユーザ―目線で改良が重ねられている。

ダイナミクスの使用感について院長の岩崎さんはこう語る。「経験のない会計業務、特に加算など診療報酬の算定ルールに不安がありました。しかしダイナミクスは最初に設定しておけば自動でアラートが出るなど過剰請求ができないようになっています。精算と同時にレセプトチェックもできます。勤務医時代に眼科専用や病院向けの電子カルテを使ってきましたが、これほど使いやすいと感じたことはありませんでした」

コストをかけないクリニックのモデルに

眞鍋さんは、同院のような形態のクリニックを軌道に乗せることで、医師の地域偏在や人材の確保難など日本の医療が抱える問題に対する1つのソリューションになりうるのではないかと考えている。

「医療機関の最大のコストは人件費です。集患が難しく、人材も限られている過疎地域でも成り立つクリニックのあり方を真剣に考えなくてはいけません。ダイナミクスのようなシステムを活用した院内のICT化で事務作業を大幅に自動化し、医師だけで運営できるクリニックが全国に広がっていけば多くの問題が解決される。私たちの取り組みがそのきっかけになればと思っています」

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